最新記事

麻薬対策

フィリピン現職市長暗殺 強硬な麻薬対策の一方で自身にも疑惑が

2018年7月3日(火)12時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

狙撃手はプロ級の腕前

地元警察は市庁舎の左前方にある小さな丘の藪から銃弾は飛んできたとみて、周辺を捜査したところ、藪の中に「銃眼」用に隙間が作られた場所を発見。ここが狙撃ポイントとの見方を強めている。地元テレビ局がその「銃眼」らしき隙間からハリリ市長が立っていた場所を見通すと、距離は約160メートルだった。

惨事を記録した動画や暗殺直前に整列するハリリ市長の様子から、左右の人物との間は約20センチしかなかった。約160メートルの距離から1発の銃弾で正確にハリリ市長の胸を撃っていることから、市警本部長のレナト・メルカド氏は地元マスコミに「普通のスナイパーの犯行ではなく、特に訓練を受けたスナイパーによるものだ」との見方を示した。さらに使用されたのはM14 ライフル銃の可能性が高いとの見解も明らかにしている。

ハリリ市長は現場から近くの病院に緊急搬送されたが、病院到着時にはすでに死亡していたという。現場に銃弾が残されていないため市長の体内に残っているとみて遺体の司法解剖が行われるという。

麻薬犯罪に厳しい一方で自身が関与の疑惑も

ハリリ市長はドゥテルテ大統領が強硬に進める「超法規的措置」という名の現場での射殺を含めた麻薬対策に対しては当初疑問を示していた。2016年のロイター通信とのインタビューで「市長、知事、国会議員の誰もが安全ではない。警察による(麻薬犯罪と関連したという)偽の情報は誰をも破壊することができる。こうした捜査手法は市民を恐怖に陥れるだけだ」との立場を示していた。

一方では麻薬犯罪容疑者を市中行進させる「恥ずべき行進」と呼ばれるデモンストレーションで地元警察などが進める麻薬対策には協力的かつ強硬姿勢だったという。

しかし2017年に麻薬捜査の過程でハリリ市長の名前が取りざたされ、全国で麻薬汚染の可能性のある市長の1人と噂されたこともある。ハリリ市長は麻薬との関連については否定し続けてきた。

フィリピンでは2016年11月4日にレイテ州アルグエラ市のロナルド・エスピノサ市長が刑務所に収監中に射殺されている。さらに2017年7月30日には南部ミンダナオ島西部サンボアガ半島にある西ミサミス州オザミス市のレイナルド・パロジノグ市長が自宅に踏み込んできた警察部隊によって、妻や兄弟、ボディガードとともに殺害されるという市長の殺害が続いている。いずれも麻薬犯罪との関与が取りざたされた市長といわれている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 9
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中