最新記事

中国経済

モンテネグロを蝕む中国投資 「一帯一路」結ぶ高速道は債務超過への1本道?

2018年7月24日(火)16時30分

モンテネグロの高速道路建設工事現場付近に作られたCRBCの作業員用の住居。6月撮影(2018年 ロイター/Stevo Vasiljevic)

モンテネグロの景勝地モラカ川渓谷では、コンクリート製の巨大な柱の上にいる数十人の中国人作業員が、南欧でも有数の起伏に富んだ地形に、最先端の高速道路を敷設する工事を行っている。

巨大な橋や深いトンネルを備えた全長165キロに及ぶ高速道路の建設プロジェクトについて、モンテネグロ政府は「世紀の建設工事」であり、「近代世界への入り口」だと位置づけている。

この高速道路は、アドリア海に面したモンテネグロの港町バールと、海を持たない隣国セルビアを結ぶ計画だ。だが、第1区間となる首都ポドゴリツァ北部の山間部を結ぶ41キロの難工事が終わると、政府は難しい選択を迫られることになる。

第1区間に対して提供された中国からの融資により、モンテネグロの債務は急増し、政府は財政規律を取り戻すため増税や公務員の賃上げ凍結、母親向けの給付金廃止を余儀なくされた。

こうした措置にもかかわらず、モンテネグロの債務は今年、国内総生産(GDP)の8割近くに達する見通しで、国際通貨基金(IMF)は、野心的な高速道路プロジェクト完成のために、さらに負債を負う余裕はないと同国に警告している。

「どうしたら完成できるのか、大きな疑問がある」と欧州連合(EU)の当局者は語る。「モンテネグロの財政余地は大きく縮小している。自らの首を絞めているような状況だ。現段階で、これはどこにも行き先のない高速道路だ」

EU加盟国に加え、モンテネグロやセルビア、マケドニア、アルバニアなどEU加盟を目指す西バルカン諸国では、この高速道路プロジェクトは、中国が欧州に与える影響を巡る活発な議論の中心となっている。

野心的なシルクロード経済圏構想「一帯一路」を掲げた中国が経済的影響力を拡大する中、アジアやアフリカの貧しい国々は、同国が提供する魅力的な融資や、大規模インフラ計画の約束に飛びついてきた。

これにより、中国の巨大な外貨準備へのアクセスなしには不可能だったであろう規模の開発プロジェクトが可能となった。だが、スリランカやジブチ、モンゴルなど、いくつかの国には負債が重くのしかかり、中国依存をより深める結果となっている。

新しい高速道路によって国に明るい未来をもたらそうという夢を追うモンテネグロは、そうした立場に追い込まれた欧州初の国だ。

「この高速道路計画は、モンテネグロでは一大事だ。チトーと社会主義時代の大規模開発プロジェクトを国民に思い起こさせるものだ」。研究者のMladen Grgic氏は、旧ユーゴスラビアの共産主義指導者だったチトー大統領に触れながら、そう指摘した。

「だがそれは、罠(わな)だ。始まったからには、どれほどの害悪をもたらすものになっても政治家には止められない。また率直に言って、政治家は止めたいと思ってもいない」と、この高速道路についての研究を昨年発表したGragic氏は語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テマセク、運用資産が過去最高 米国リスクは峠越えた

ワールド

マレーシア、対米関税交渉で「レッドライン」は越えず

ビジネス

工作機械受注、6月は0.5%減、9カ月ぶりマイナス

ビジネス

米製薬メルク、英ベローナ買収で合意間近 100億ド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 9
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中