最新記事

トランプvs.金正恩 「反撃」のシナリオ

【戦争シナリオ】北朝鮮はどうやって先制攻撃してくるか

2017年9月12日(火)16時35分
チェタン・ペダーダ(元在韓米軍情報将校)

Clockwise from Top Right: Roderick Eubanks-U.S. Navy-Reuters, Kim Hon-Ji-Reuters(2), Kamaile Casillas-Pacific Air Forces-Dvids-Reuters


170919cover_150.jpg<ニューズウィーク日本版9月12日発売号(2017年9月19日号)は「トランプvs金正恩 『反撃』のシナリオ」特集。エスカレートする「核保有国・北朝鮮」の挑発に、制裁しか選択肢はないのか、武力行使の可能性はあるのか。この緊急特集から、日本の一部メディアでも報じられたチェタン・ペダーダ元在韓米軍情報将校による寄稿を抜粋・転載する>

米韓合同軍の秘密地下司令部「タンゴ」では極限の緊張状態が続いていた。全員が自らの任務に追われている。

北朝鮮軍が韓国の首都ソウルとその周辺に砲弾の雨を降らせ、韓国とアメリカの民間人にも軍人にも既に多くの死者が出ていた。北朝鮮が挑発し、アメリカが対応をエスカレートさせる。その果てしない繰り返しの末に、破れかぶれの北朝鮮がついに先制攻撃を仕掛けたのだ。

指揮官たちが見つめる巨大な戦場ジオラマには、米韓両軍の配置や次に攻撃目標となりそうな場所が示されている。何十万ものソウル市民が家を捨て、安全な場所への避難を始めるなか、侵入した北朝鮮兵による攻撃の情報が続々と入ってきた。司令部のモニター画面にはサイバー攻撃の警報ランプが点滅。上下水道がやられ、電気が止まり、市民の救出は困難を極める──。

これはもちろん仮定に基づくシナリオだが、十二分にあり得る話だ。筆者はかつて在韓米軍の情報将校として、数多くの軍事演習でさまざまな想定に基づく戦争シナリオの作成に携わってきた。

ただし、ここでは全面的な核戦争の恐れについては触れない。最も差し迫っている危機は、通常兵器による北朝鮮軍の韓国侵攻だからだ。

アメリカは、その結果がどれほど壊滅的なものになるかを知っている。戦争となれば大規模な人道危機が発生し、膨大な数の命が失われ、経済的な損害も計り知れないだろう。

ほとんど疑問の余地なく言えることだが、負けるのは北朝鮮のほうだ。彼らは自滅する。ただしその過程で、朝鮮半島のかなりの地域を道連れにする可能性がある。

【参考記事】「核のタブー」の終わりの始まり

短期間での集中攻撃しかない

北朝鮮が攻撃を開始するとすれば、そのきっかけは何だろうか。

人口の推定41%が栄養不良の状態にあり、国際社会による制裁強化で1990年代を上回る深刻な飢餓の迫る状況で、独裁者・金正恩(キム・ジョンウン)が「万策尽きた」と考えた場合だ。

または、韓国に奇襲攻撃をかければ国民の士気が上がり、国際社会に北朝鮮の力を思い知らせることができると判断した場合。あるいは、勝利と総力戦を掲げるプロパガンダに北朝鮮の指導部自らが洗脳され、自分たちは戦いに勝てると思い込んだ場合だ。

いずれにせよ、いったん先制攻撃を決断したら、北朝鮮は戦争目的の遂行に向けて迅速に行動を起こすだろう。その目的とは韓国全域を掌握して北朝鮮を朝鮮半島の事実上の「支配者」とすること、あるいは限定的な攻撃によって国際社会に北朝鮮の威力を思い知らせることだ。

北朝鮮の攻撃は最初から時間との戦いになる。さすがの中国も先制攻撃をかけた北朝鮮には軍事物資を渡さないと考えられるから、北朝鮮軍の補給能力は限られる。食糧も弾薬も、燃料や水も数日で尽きてしまうだろう。一部の部隊は数週間にわたって作戦を遂行できるかもしれないが、山岳地帯を越えて物資の供給ラインを維持するのは不可能に近い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、代替関税率を10%から15%に引

ビジネス

エヌビディアやソフト大手の決算、AI相場の次の試金

ワールド

焦点:「氷雪経済」の成功例追え、中国がサービス投資

ワールド

焦点:米中間選挙へ、民主党がキリスト教保守層にもア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 2
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面を突き破って侵入する力の正体が明らかに
  • 3
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官が掲げる「新しいスパイの戦い方」
  • 4
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 5
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 6
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 7
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 8
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    「高市トレード」に「トランプ関税」......相場が荒…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 5
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 6
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 7
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 10
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中