最新記事

トランプvs.金正恩 「反撃」のシナリオ

【戦争シナリオ】北朝鮮はどうやって先制攻撃してくるか

2017年9月12日(火)16時35分
チェタン・ペダーダ(元在韓米軍情報将校)

北朝鮮軍の指揮命令系統は攻撃開始から数時間で破壊されてしまう可能性が高く、司令部と現場の意思疎通は難しくなる。米軍は空からの圧倒的な攻撃で北朝鮮軍の主要な旅団や師団の司令部を破壊し、現場の部隊を孤立・混乱させ、連携の取れた攻撃ができないようにするはずだ。

そうなると、北朝鮮が勝利を夢見るには短時間で勝負を決するしかない。彼らは第二次大戦時の旧日本軍のように、「意志の弱いアメリカ」に対して早々に決定打を与えようと考えるだろう。つまり最初の数時間で、南北の非武装中立地帯(DMZ)沿いとソウル周辺の最も重要な米軍駐屯地を狙って、集中攻撃を仕掛けるということだ。

その他の標的には韓国内の空・海軍基地や、もしかしたら在日米軍の基地も含まれる可能性がある。日米韓が連携して反撃してくるのを阻止し、北朝鮮軍がDMZから、あるいは東西の海岸から韓国領に侵入する際の防衛を弱体化させるためだ。彼らは短距離弾道ミサイルや多連装ロケット砲をほぼ同時に発射して、これらの重要な防衛関連施設の破壊を試みるだろう。

複数の推定によれば、北朝鮮は国内全域に約1000発のミサイルを配置しており、その多くがソウルを射程圏内に収めている。ミサイルはそれぞれが街の1~2区画を全滅させるのに十分な威力がある。ほんの数発であっても、防衛関連施設目がけてソウルに撃ち込まれれば重大な結果がもたらされるはずだ。

だが韓国軍とアメリカ軍が迅速に発射位置を特定して反撃するから、ミサイル攻撃は長くは続かないだろう。

それでも北朝鮮には、ミサイルを発射した後に素早く発射台を地下施設や洞窟の奥深くに隠す能力があるため、全てのミサイルを地上で破壊するのは極めて難しい。何十年もかけて準備を行ってきた北朝鮮は、アフガニスタンのアルカイダや、50年代の「ディエンビエンフーの戦い」直前のベトナムを上回る巨大な人工洞窟網を築いている。

ミサイルだけでも大惨事をもたらす威力があるが、それは北朝鮮が保有する兵器の一部でしかない。朝鮮戦争の終結(休戦)以降、北朝鮮は生物兵器や化学兵器を大量に製造してきたし、サイバー攻撃の能力も驚くほど急激に開発してきた。

一部の推定によれば、北朝鮮は2500~5000トンに及ぶ化学兵器を保有しており、その中にはサリンやVXなどの神経ガスも含まれる。天然痘や炭疽(たんそ)菌などの生物兵器を使用する可能性もある。現に金正恩の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)の暗殺によって、北朝鮮は効果的に化学兵器を使用できる能力を国際社会に見せつけている。

戦争になれば、北朝鮮は韓国軍と米軍の航空基地、そして主要な供給ルートに生物・化学兵器を使うことをためらわないだろう。この種の兵器に汚染された地域では保護服を着用しなければならない状況に陥るため、韓国軍と米軍の動きは著しく阻害される。北朝鮮にとって、こうした兵器の使用は難しいことではない。通常の弾頭の代わりに生物・化学兵器をミサイルに搭載する技術を確立しているからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU・仏・独が米国非難、元欧州委員らへのビザ発給禁

ワールド

ウクライナ和平の米提案をプーチン氏に説明、近く立場

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 8
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中