最新記事

言論

ケンブリッジ大学出版局が中国検閲受け入れを撤回

2017年8月23日(水)13時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

日本は毅然と戦えるのか?

今回の事件は、日本を含めた関係国が、中国に対して毅然と振舞えるのか否かという、これからの根本的課題を人類に突き付けている。

筆者が『毛沢東 日本軍と共謀した男』を出版して以来、日本の一部の大手メディアは中国の顔色を窺い、このことに触れないようにビクビクしている。大局的視点に立たず、「習近平さま」の怒りに触れないよう、筆者を避けるのである(そうでないメディアもあり、心からの敬意を表する)。

いま人類は大きな分岐点に差し掛かっている。

中国がチャイナ・マネーでどこまで人心を買うことができるのか、民主主義国家と中国との、「人間の尊厳」を軸にした地球レベルの戦いが展開されることになるだろう。

今般のケンブリッジ事件は、そのことを如実に突き付けている。

拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』(の中国語版)を最も喜んでくれたのは、ワシントンで中国の民主化のために闘っている華人華僑たちだった。VOAやFRAの中国セクションは、競って筆者を取材し、その番組を習近平に見せるのだと張り切ってくれた。多くの民主活動家たちは「毛沢東が日本軍と戦った事実」と「中国が真実を隠蔽し、歴史を捏造している事実」を世に知らせてくれたことこそが、民主運動家たちに力を与え勇気づけてくれると、数多くの感謝の言葉を送ってくれた。

トランプ政権誕生により、アメリカのプレゼンスが低くなっているいま、中国の制覇が目前に迫っている。それに抵抗できるのは人類の良心だ。

習近平が最も恐れる「毛沢東が日中戦争時代、日本軍と共謀していた」という事実こそが、「独裁国家に言論弾圧の輸出をさせないための強烈な武器」なのである。

この真相を中国に突き付ける勇気が日本にあるか?

中国の顔色を窺う日本と決別する勇気と良心を持っているか?

それともチャイナ・マネーの魅力が優先されるのか?

もし戦争への贖罪意識というのなら、なぜ韓国ヘは堂々とものを言い、中国には言えないのか?

それは即ち、チャイナ・マネーの威力に気を遣っているせいではないのか?

日本はその分岐点に立っていることを自覚してほしいと祈る。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中