最新記事

ヨーロッパ経済

意外な底力を見せるユーロ圏の経済

2017年8月1日(火)17時10分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター所長)

持続可能な財政が強み

もちろんユーロ圏の長期的な成長を過大評価してはならない。今後数年は新規雇用の創出によって残っている失業者が吸収され、高齢者が労働市場に復帰することも期待できるから、平均して2%超の成長が続くだろう。しかし労働力の余剰はやがて底を突く。

ユーロ圏が「ルイスの転換点」(余剰労働力が底を突き、賃金が上昇し始める)に達すれば、成長率は人口動態をより忠実に反映したレベルまで下がるだろう。ユーロ圏の人口動態は悲観材料でしかない。今後10年は生産年齢人口が年率約0.5%減り続ける見込みだ。

しかし、そうなっても1人当たりの成長率がアメリカを大幅に下回ることはなさそうだ。労働生産性の上昇率では今やアメリカとほとんど遜色がない。

その意味で、ユーロ圏の将来は今の日本に近いかもしれない。日本は、成長率が1%をわずかに超えればニュースになり、低インフレからなかなか脱出できずにいるが、1人当たり所得の伸びはアメリカ、ヨーロッパと変わらない。

幸いユーロ圏が突入するのは、財政が健全で失業率・成長率ともに低いこの局面だ。それはいささか評判の悪い緊縮政策のおかげでもある。対照的にアメリカと日本は、財政赤字がGDPの4%を超える状態(ユーロ圏より2~3ポイント高い)で完全雇用を達成した。しかも日米とも膨大な借金を抱えている。債務残高の対GDP比はアメリカが107%、日本が239%、対するユーロ圏は約90%だ。

【参考記事】トランプ、プーチン、それともメルケル? 保守ポピュリズムが台頭する旧東欧諸国の選択

金融危機後に名目金利がゼロになるなど金融政策が使えない場合、大規模な財政出動が威力を発揮することは既に実証されている。一方で、まだ答えが出ていない重要な問いがある。金融市場の混乱が収まった後も大盤振る舞いを続けるべきなのか。

答えはおそらくノーだ。その証拠にユーロ圏の回復ペースはアメリカに追い付きつつある。ユーロ圏の経済が示すのは、景気刺激策は緊急時の救命措置にすぎず、危機を過ぎた後もカンフル剤を打ち続けるのは賢明な処置ではないということだ。

景気後退が終わったら赤字減らしに取り組む――このやり方では、確実に回復ベースに乗るまでに時間がかかるかもしれない。だが、いったん経済が持ち直せば、財政が持続可能な状態にあるおかげでより強固な成長が期待できる。

ケインズの「長期的にはわれわれはみんな死んでいる」という言葉はあまりにも有名だ。だからといって、長期的な視点を持たなくていいわけではない。

ユーロ圏が金融危機後に設定した「長期」は既に終わったが、ユーロ圏の経済は死なずに健全な成長を続けている。

©Project Syndicate

[2017年6月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スイス・スキーリゾートのバーで爆発、約40人死亡・

ワールド

台湾総統「26年は重要な年」、主権断固守り防衛力強

ワールド

再送トランプ氏、シカゴやLAなどから州兵撤退表明 

ビジネス

ビットコイン、2022年以来の年間下落 最高値更新
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 8
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中