意外な底力を見せるユーロ圏の経済
持続可能な財政が強み
もちろんユーロ圏の長期的な成長を過大評価してはならない。今後数年は新規雇用の創出によって残っている失業者が吸収され、高齢者が労働市場に復帰することも期待できるから、平均して2%超の成長が続くだろう。しかし労働力の余剰はやがて底を突く。
ユーロ圏が「ルイスの転換点」(余剰労働力が底を突き、賃金が上昇し始める)に達すれば、成長率は人口動態をより忠実に反映したレベルまで下がるだろう。ユーロ圏の人口動態は悲観材料でしかない。今後10年は生産年齢人口が年率約0.5%減り続ける見込みだ。
しかし、そうなっても1人当たりの成長率がアメリカを大幅に下回ることはなさそうだ。労働生産性の上昇率では今やアメリカとほとんど遜色がない。
その意味で、ユーロ圏の将来は今の日本に近いかもしれない。日本は、成長率が1%をわずかに超えればニュースになり、低インフレからなかなか脱出できずにいるが、1人当たり所得の伸びはアメリカ、ヨーロッパと変わらない。
幸いユーロ圏が突入するのは、財政が健全で失業率・成長率ともに低いこの局面だ。それはいささか評判の悪い緊縮政策のおかげでもある。対照的にアメリカと日本は、財政赤字がGDPの4%を超える状態(ユーロ圏より2~3ポイント高い)で完全雇用を達成した。しかも日米とも膨大な借金を抱えている。債務残高の対GDP比はアメリカが107%、日本が239%、対するユーロ圏は約90%だ。
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金融危機後に名目金利がゼロになるなど金融政策が使えない場合、大規模な財政出動が威力を発揮することは既に実証されている。一方で、まだ答えが出ていない重要な問いがある。金融市場の混乱が収まった後も大盤振る舞いを続けるべきなのか。
答えはおそらくノーだ。その証拠にユーロ圏の回復ペースはアメリカに追い付きつつある。ユーロ圏の経済が示すのは、景気刺激策は緊急時の救命措置にすぎず、危機を過ぎた後もカンフル剤を打ち続けるのは賢明な処置ではないということだ。
景気後退が終わったら赤字減らしに取り組む――このやり方では、確実に回復ベースに乗るまでに時間がかかるかもしれない。だが、いったん経済が持ち直せば、財政が持続可能な状態にあるおかげでより強固な成長が期待できる。
ケインズの「長期的にはわれわれはみんな死んでいる」という言葉はあまりにも有名だ。だからといって、長期的な視点を持たなくていいわけではない。
ユーロ圏が金融危機後に設定した「長期」は既に終わったが、ユーロ圏の経済は死なずに健全な成長を続けている。
[2017年6月27日号掲載]