最新記事

ヨーロッパ経済

意外な底力を見せるユーロ圏の経済

2017年8月1日(火)17時10分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター所長)

Stuart Kinlough-Ikon Images/GETTY IMAGES

<「崩壊の危機」を脱して回復軌道に乗り、緊縮財政下でも強固な成長は可能だと実証>

ここ何年か、ユーロ圏の将来はもっぱら「いつ崩壊するか」という文脈で論じられてきた。その経済は末期的症状を呈していると、多くの人々が思い込んでいる。昨年イギリスがEU離脱を選択したのも、ユーロ圏の経済に見切りをつけたという側面もあった。

だがここにきて金融市場は単一通貨ユーロの買いに走り始めた。それには理由がある。

遅まきながら市場もユーロ圏の潜在的な力に気付いたようだ。事実、ユーロ圏は11~12年の危機をとうに脱出し、1人当たりの成長率は今やアメリカを上回っている。失業率も低下しているが、低下のペースはアメリカより遅い。ただし、これには労働参加率の違いが絡んでいる。

アメリカでは00年前後から労働参加率が低下し始めた。長期にわたる失業で求職活動を断念した人たち(失業者に数えられない)が増えているためだ。特に09年の景気後退後、この傾向が顕著になった。

ヨーロッパでも多くの労働者が長期にわたり非常に高い失業率に直面してきたから、同様の現象が起きてもおかしくない。だがユーロ圏では過去5年間に250万人が新たに労働力人口に加わり、労働参加率は上昇。一方で500万人分の雇用が生まれたため、失業率は半減したが、アメリカほど大幅な低下はみられない。

【参考記事】「グローバル化は終焉、日本はEUに加盟せよ」水野和夫教授

注目すべきは、ユーロ圏の経済が予想外の形で、つまり継続的な財政出動なしで回復してきたことだ。ここ数年の緊縮政策をめぐる声高な議論は的外れだったと言わざるを得ない。批判派も擁護派も引き締めの影響を過大に評価していたようだ。

ユーロ圏の景気調整済み財政赤字は、14年以降ほぼ変わらずGDPの1%前後を維持してきた。もちろん加盟国によって財政状態に大きなばらつきがあるが、多様な国々の通貨統合である以上、それは想定内。ユーロ圏の劣等生といわれるフランスでさえ、財政赤字も債務残高もアメリカより少ない。

EUの「安定成長協定」やユーロ圏の「財政協定」などの財政ルールは有名無実とみられているが、ユーロ圏の現状をアメリカや日本と比較すれば、この見方は説得力を失う。

確かに財政規律の基準を守れなくても何らかの制裁が科されるわけではない。それでもルール違反が声高にとがめられることによって健全財政維持の圧力が働き、無節操なばらまきに歯止めがかかる。ユーロ圏の多くの国々が採用してきた「ソフトな緊縮路線」は、結局のところ賢い選択だったとみていい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ファタハとハマスが北京で会合、中国が仲介 米は歓迎

ビジネス

アマゾン、第2四半期売上高見通し予想下回る 第1四

ビジネス

スタバ、第2四半期の既存店売上高が予想外に減少 米

ビジネス

NY外為市場=円下落、予想上回る米雇用コスト受けド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 5

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 6

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 10

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中