最新記事

国際政治

トランプ ─ 北朝鮮時代に必読、5分でわかる国際関係論

2017年8月21日(月)19時30分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

烏合の衆? 北朝鮮のICBM発射を受け、追加制裁を話し合う国連安保理事会(7月5日) Mike Segar-REUTERS

<北朝鮮情勢、トランプ米政権の苦境、中国の覇権主義......国際情勢が急速に不安定化するなかでも、5つの概念さえ覚えておけば何があっても不意を突かれることはなくなる>

(本記事は、2014年5月19日に掲載された筆者のベストセラー記事です)。

国際情勢がこれだけ複雑になり緊迫化してくると、もっと国際関係論を勉強しておけばよかった、と後悔している人も多いのではないだろうか。コンピューターサイエンスや生物学、応用数学などもすべて立派な科目だが、複雑な国際情勢や外交を紐解く助けになってくれる学問は他にないだろう。

だが大丈夫、簡単な解決策がある。数十年前、米NBCテレビのコメディー番組「サタデー・ナイト・ライブ」が、「5分間大学」という素晴らしいコーナーを発明した。大学卒業後5年経っても覚えている(=それだけの価値がある)ことだけを5分間で教えるコーナーだ。例えば経済学なら「需要と供給」、神学なら「神はあなたを愛している」。それだけだ。

国際政治は無政府状態

ここでは、国際関係論の5分間大学を開講する。この講義は5つの基本概念から成り、国際関係論の魅力を上で知っておくべきことをすべて教える。読むには5分もかからないはずだ。

1)アナーキー(無政府状態)

国際政治と国内政治の違いは言うまでもない。国際政治には中心的権威が存在しない。現実主義者でなくてもこれには同意するだろう。国際社会にはパトロールの警官はいないし、国家が訴訟を起こせる正式な裁判所も、トラブルに巻き込まれたときに使う緊急通報用電話の911もない(疑うなら、ロシアにクリミア半島を奪われたウクライナや、1994年のルワンダ大虐殺で最大100万人が殺されるなか、国連部隊に見放されたルワンダに聞くといい)。

【参考記事】ゾンビ襲来!国際政治はいかに戦うか

国家間の平和を保つ中心的権威がない中、大国は自力で自国を防衛しつつ、関係国でトラブルが起きないよう監視も続けなければならない。国同士が協力したり、他国のためにささやかな善行を行うことさえあるが、それは常に安全が脅かされ、恐怖が国際情勢全体を覆っている証拠だ。

2)勢力均衡論(バランス・オブ・パワー)

中央の権威が存在しないゆえ、国家は常に、強い国はどこか、追撃してくる国、遅れている国はどこかに気を配り、劣等国の地位に追いやられる運命を逃れる方策を考える。

【参考記事】国際関係学で読み解くアカデミー賞

勢力均衡論は、国家が同盟相手を見極める方法や、戦争になる可能性が高くなったり低なったりする条件について多くを教えてくれる。通常、国家間のパワーバランスが変化するときは危険だ。そういう時には、台頭する国家が現状をひっくり返そうとするし、落ち目の大国がしなくてもいい戦争を仕掛けたりするからだ。あるいは単純に、パワーバランスの変化でどの国が本当に強いのかが分かりにくくなる結果、互いの力量について誤算が生じやすくなることも事故の原因になる。

勢力均衡の正確な意味をめぐっては長年議論が続いたが、これに言及せずに国際関係を理解しようとするのはバットなしで野球をするようなものだ。

【参考記事】自由主義的な世界秩序の終焉

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米総合PMI、12月は半年ぶりの低水準 新規受注が

ワールド

バンス副大統領、激戦州で政策アピール 中間選挙控え

ワールド

欧州評議会、ウクライナ損害賠償へ新組織 創設案に3

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人 失業率は4年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中