最新記事

シリア内戦

シリアで米軍機を撃墜すると脅すロシアの本気度

2017年6月21日(水)21時15分
ダミアン・シャルコフ

シリアのロシア軍基地フメイニムで待機するロシア軍機(6月18日) Vadim Savitsky-REUTERS

<ロシア国防省の警告は脅しに過ぎない、というもっともな見方もあるが、警告の効果は既に表れはじめている>

今週月曜に米海軍の戦闘機がシリア政府軍機を撃墜したのを受けて、ロシアは今後、シリア西部を飛行する米軍機をロシア軍の「標的」とみなすと警告した。米ロともシリア内戦に介入しているが、ロシアはシリアのバシャル・アサド政権を、アメリカは反政府勢力をそれぞれ支援している。

ロシア国防省とロシア外務省は米軍による撃墜に猛反発し、今後はシリア西部を飛行する米軍機を「追跡」し、シリア上空での衝突回避のために2015年に設置したアメリカとの通信を遮断すると発表した。ロシアによる一連の警告について、専門家は懐疑的な見方を示している。一体ロシアは本気で対抗措置を取るつもりなのか。それともあえて過激な表現を使って強いロシアを見せようとしたのか。

ロシアが一方的にアメリカとの通信を遮断すると脅したのは、今回が初めてではない。ロシア外務省は4月にも、通信の遮断を通告した。そのときは、アサド政権による化学兵器使用に怒ったアメリカが、シリアの空軍基地にミサイルを撃ち込んだことへの対抗措置だった。

【参考記事】米軍がシリアにミサイル攻撃、化学兵器「使用」への対抗措置

英シンクタンク英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)の研究者サラ・レインは、当時ロシアが実際に米ロ間の通信を遮断したかどうかはっきりせず、恐らく今回も本当には遮断しないだろうと指摘する。

トランプが生んだ不確実性

「ロシアがアメリカとの通信を遮断するのは現実的でない。ロシア自身のためにならない」とレインは言う。「とくに今は、緊張が高まったときのアメリカの出方が以前より予測不能になっている」

レインによれば、バラク・オバマ前政権のときに途中からシリア空爆に参加したロシアがあっという間に主要プレイヤーになれたのは「米軍はロシアとの軍事衝突を避ける」という計算があったからだ。

しかしドナルド・トランプ米大統領の就任後、「米軍はシリア内戦で以前より大胆な作戦を実行する裁量を与えられた」とレインは言う。「そのことが、ロシアを躊躇させている」

【参考記事】トランプはロシア疑惑をもみ消すためにシリアを攻撃した?

ロシア国防省の警告はいかにも大げさだった。わざわざ「標的」という言葉を使い、ロシア軍はユーフラテス川から西を飛行する米軍機を撃ち落とす可能性があると発表したのだ。だが、一体どのような状況下で撃墜するのかについて、レッドライン(越えてはならない一線)を引くことは避けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人・失業率4.6

ビジネス

ホンダがAstemoを子会社化、1523億円で日立

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

トランプ氏がBBC提訴、議会襲撃前の演説編集巡り巨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中