最新記事

ブラジル

「世界一の祝祭」リオのカルナヴァルは熾烈なリーグ戦だった

2017年3月27日(月)15時19分
ケイタブラジル(KTa☆brasil)

サンバやカルナヴァルがただの音楽文化、ただの祭りでないことがわかっていただけただろうか。例えば東日本大震災においても、日本各地にあるエスコーラ・ヂ・サンバは被災地支援に尽力した。筆者に限らず、多くのエスコーラが炊き出しを行い、サンバの打楽器をたくさん抱えて被災地入りして合奏しては、老若男女を問わず、理屈と我を忘れて合奏を楽しむ時を共にした。

なかでも埼玉のエスコーラ"アレグリア"の活動には目を見張るものがある。2011年より現在までに20回以上、東北の被災各地に出向いては、瓦礫の撤去、炊き出し、物資提供、そしてサンバで元気づけるなど、活動を継続してきた(熊本地震の被災地でも)。また、筆者はサンバのメソッドによるワークショップも、学校や学術機関、野外音楽フェスで行っている。

brasil170327-8.jpg

1部、2部リーグの全パレードが終了すると共に、感極まり会場になだれ込む観衆の姿。観るものと出場するものを超えた歓喜と心意気の共有、理屈を超越した感動的なカルナヴァルの終演を惜しむクライマックス

今年は疑惑のジャッジで名門エスコーラが優勝

さて、最後に今年のリオのカルナヴァル、メインスタジアムのリーグについて少しレポートしておこう。

3大名門エスコーラのひとつ、Portela(ポルテーラ)の33年ぶりとなる優勝が話題となった。ただし、ここで詳細は省くが疑惑のジャッジであり、現地メディアでは今も、採点者や採点表原本まで取り沙汰されて判定に対する係争が報じられており、裁判にまで発展していて話題の渦中だ。事実上のチャンピオンは抗議をしている準優勝のMocidade Independente(モシダーヂ・インデペンデンチ)だろう。

また、筆者も打楽器奏者として参加した3大名門のもう1チーム、インペーリオ・セハーノが2部で優勝し、8年ぶりに1部に復帰したことも話題に。昨年はもうひとつの名門Mangueira(マンゲイラ)が優勝しており、伝統と実績のある古豪の復活がこのところ注目点となっている。

山車の故障と運転ミスによる事故で多数の重軽傷者を出しただけでなく、厳正に運営されているカルナヴァルを中断させ(事実上1時間以上の試合中断状態に)、レギュレーションのひとつである規定パレード時間を大幅に超過した2エスコーラ、Paraíso do Tuiuti(パライーゾ・ド・トゥイウチ)とUnidos da Tijuca(ウニドス・ダ・チジューカ)が降格を免れた。これはポルテーラの優勝とは比べものにならないほどにリーグの裁定に対する大きな不信を呼んでいる。

そんなこともありながら、カルナヴァルはともかく終了した。リーグはすでに2018年シーズンへと移り、チームの再編、契約更改や移籍が活発となるストーブリーグに突入している。アートディレクター、打楽器隊リーダー、歌手などの引き抜き合戦がリオや世界中のサンバ愛好家たちの間で注目と話題の的だ。

その一方、世界のサンバ愛好家たちは自らの準備も進めているはずだ。本場リオの100年の伝統と歴史を敬愛し、理解する外国人の参加はますます増加の一途だ。2018年のリオのカルナヴァルまですでに1年を切っているが、チャンスがあれば参加してみたいという人はいないだろうか。

世界中の民族と歴史が流れ込んだ多人種混成社会だからこそ成し得る、世界最大の祝祭を実体験し、その心意気を会得する日本人が増えることを願っている。

ktabrasil_profile_80.jpgケイタブラジル(KTa☆brasil)
東京生まれの日本人音楽家。著名なJ-POPシンガーから世界的なアーティストまで制作・共演の実績多数。1997年よりブラジルで活動。リオ市観光局公式プレゼンター。本場リオのサンバの殿堂初(G.R.E.S. Império Serrano)の外国人公式認定打楽器指導者。リオの名門クラブチームC.R.Vasco da Gamaスタジアム殿堂刻名会員。
http://ktabrasil.exblog.jp/

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中