最新記事

フィリピン

内憂外患のフィリピン・ドゥテルテ大統領、暴言を吐く暇なし

2017年3月14日(火)14時40分
大塚智彦(PanAsiaNews)

3月13日、マニラで記者会見したときのドゥテルテ大統領 Erik De Castro-REUTERS

<「フィリピンのトランプ」と呼ばれたドゥテルテ大統領だが、最近は外相が辞任し、自分も汚職や人権侵害の疑いで告発を受けるなど大忙し。得意の暴言も聞かれない>

フィリピンのトランプと言われて本家の「ドナルド・トランプ米大統領」にも劣らない強烈な個性と想定外の発言で内外の注目を集めたドゥテルテ大統領。だが最近は、国際ニュースに登場する機会はめっきり減っている。一因は腹心の外相の突然の辞任、ドゥテルテの「殺人」などに対する告発、反ドゥテルテ派上院議員の逮捕が続いたこと。その対処で手一杯なのだ。

ドゥテルテ大統領が直面しているのは政府内と議会という"内憂外患"だ。

フィリピンの閣僚任命委員会は3月8日、パーフェクト・ヤサイ外相の閣僚任命を不承認とする決定を下した。ヤサイ外相といえばドゥテルテ大統領の学生時代からの親友であり、知米派としてドゥテルテ大統領のオバマ大統領や米国に対する数々の暴言、失言をカバーし、両国外交の良好な関係維持に大きな役割を果たしてきた。

【参考記事】比ドゥテルテ大統領、トランプ勝利に「ともに暴言吐く仲間、アメリカとの喧嘩はやめた

ASEAN(東南アジア諸国連合)の会議では南シナ海問題に関して「対中強硬姿勢」で意見集約を図るなど外交的手腕も発揮するなどして文字通り大統領の右腕的存在だった。

ところが閣僚一人一人の資格について時間をかけて審査していた同委員会が閣僚任命から約8か月後にようやく結論に至り「閣僚として不承認」としたわけだ。

ヤサイ外相は外相就任前に米国在住で1980年代に米国市民権を取得した経緯があるにも関わらず資格審査の公聴会で「(市民権を)持っていない」との虚偽の説明をしてきたことが閣僚として不適格と判断された。

任命された閣僚を審査する同委員会はフィリピンの決定は全会一致で、8日にヤサイ外相は辞任に追い込まれた。

上院議員が大統領の不正蓄財を追及

最大の打撃となったのは、ある上院議員がドゥテルテ大統領の不正蓄財疑惑を暴いたことだ。上院のトリラネス議員は2月16日に記者会見をして、ドゥテルテ大統領とその家族が合計24億ペソ(約55億2000万円)の不正蓄財をしていると告発した。

野党マグダロ党の上院議員であるトリラネス議員は昨年4月の大統領選前にもドゥテルテ氏の不正蓄財を告発したものの、大統領選での圧倒的勝利とその後の高い支持率に守られる形で大きな注目を集めなかった。ところがその後「新たに不正を裏付ける証拠を見つけた」として改めてこの日、大統領追及に打って出たのだ。

同議員によると2006年~2015年までの間、ドゥテルテ氏名義の複数の銀行口座に不正な資金の流入があり、不正蓄財の疑いがあるとして大統領に「改めて各口座の出入金記録と現在の預金額の公開」を要求。さらにダバオ市長時代のドゥテルテ氏に1億2000万ペソ(約2億8000万円)が実業家から銀行口座に振り込まれている事実も新たに確認した、と発表した。もし疑惑が誤りなら「即座に議員を辞職する」と同議員は強調した。

これに対しドゥテルテ大統領は「不正は一切なく、もし事実なら私が辞職する」と疑惑を完全否定。大統領報道官も「昔の済んだ話を同議員は持ち出しているだけで解決済みだ」「疑惑があるなら会見ではなく司法の判断を仰ぐのが順当な手続き」「口座情報開示の準備はできているが司法の手続きが必要だ」などと反発している。

今後この不正蓄財疑惑が果たして司法の場で議論されるのか、再びウヤムヤにされるのか、それともトリラネス議員の身に危険が迫るのか、予断を許さない。というのも反ドゥテルテ派の急先鋒だった別の上院議員は既に逮捕、起訴されているからだ。

【参考記事】ドゥテルテ麻薬戦争で常用者を待つ悲劇


反大統領派急先鋒議員が逮捕される

2月24日、国家警察はデリマ上院議員を包括的危険薬物取締法違反の容疑で逮捕、その後同容疑で起訴した。直接の逮捕容疑は同議員が司法長官を務めていた2012年~13年の間にマニラ首都圏モンテンルパにあるニュー・ビリビット刑務所内での違法薬物取引に関わった疑いとされている。同議員は逮捕前に会見して容疑を完全に否定するとともに「私は政治犯だ。しかし逃げない、真実を司法の場で明らかにする」と闘争継続を表明した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中