最新記事

フィリピン

ドゥテルテ麻薬戦争で常用者を待つ悲劇

2016年11月10日(木)10時30分
アウロラ・アルメンドラル

Sherbien Dacalanio-Pacific Press-Lightrocket/GETTY IMAGES

<フィリピン・ドゥテルテ大統領が宣言した麻薬戦争で、殺害を恐れて60万人以上が自首したが、受け入れ態勢はお粗末で自警団に狙われる羽目に>(写真:レイテ島タナウアン市では、警察に出頭した1000人が警察の更生プログラムを受講した)

 就任後半年以内に麻薬密売組織を撲滅する。そのためなら何万人でも犯罪者を殺す――そんな過激な公約を掲げて選挙に勝ったフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領。公約どおり、就任後すぐさま麻薬戦争を開始した。最初の3カ月に少なくとも3400人が警察か自警団に殺害されたとみられ、国際社会は「超法規的な処刑」に厳しい批判を浴びせている。

 国家警察は戦果を誇るかのように死者数を公表しているが、その一方で麻薬戦争は思いがけない「副作用」を生み出した。

 就任後最初の週にドゥテルテは麻薬常用者に自首を呼び掛けた。これに応じて警察や政府機関に出頭した人の数は60万人を超え、当局は対応に大わらわだ。

【参考記事】ドゥテルテ大統領、虚偽の数字でフィリピン「麻薬戦争」先導か

 薬物依存の公的な治療施設はフィリピン全土に14カ所しかなく、民間の治療施設もごくわずかで、大半の施設は麻薬戦争の開始前から定員に達していた。そのため各地の当局者は苦肉の策を講じている。覚醒剤メタンフェタミンの常用者を強制的にジムに行かせ、激しい運動をさせるといった素人療法だ。

 マニラ首都圏パサイ市の197地区でも、地区当局は出頭した麻薬常用者への対応を迫られた。当局が打ち出した解決策は「汗水垂らして働けば薬物を断てるだろう」というもの。「自首した人たちを地区の大衆食堂で就労させる事業を進めている」と、地区議員のジャイメ・アバソラは言う。

政府に更生の資金はない

 だが、薬物依存は労働で断ち切れるほど単純ではない。アバソラもそれは分かっているが、政府が提供する資金はゼロ。出頭者への対応マニュアルすら作成されていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電

ワールド

中国、海南島で自由貿易実験開始 中堅国並み1130

ワールド

米主要産油3州、第4四半期の石油・ガス生産量は横ば

ビジネス

今回会合での日銀利上げの可能性、高いと考えている=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中