最新記事

アメリカ経済

大荒れトランプ政権、経済政策の命運を握る2人のキーパーソン

2017年2月17日(金)15時28分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

こうした議員時代のマルバニー局長の主張は、必ずしもトランプ大統領とは一致していない。トランプ大統領が公約してきた大型減税やインフラ投資は、財政赤字を拡大させる。年金や医療保険の削減も、トランプ大統領の公約には含まれていなかった。国防費に至っては、トランプ大統領は増額を謳ってきた経緯がある。

マルバニー局長と同様に、共和党のなかには、財政赤字の拡大に警戒心を隠さない議員が少なくない。トランプ大統領の公約と自らの主張、さらには、共和党議員の関心をどうすり合わせるのか。マルバニー局長の責務は重い。

着々と地歩を固めるコーン補佐官

もう一人、トランプ政権の経済政策を語るうえで見逃せないのが、NEC(国家経済会議)の議長であるゲーリー・コーン経済担当大統領補佐官だ。コーン補佐官は、大荒れに荒れるトランプ政権のなかで、着実に地歩を固めていると伝えられている。

トランプ政権では、とくに経済分野の人事が遅れていた。ムニューチン財務長官を議会が承認したのは、政権発足から3週間以上が経過した2月13日のこと。マルバニー局長の承認に至っては、2月16日までずれ込んだ。過去のOMB局長は、遅くとも政権発足から1週間以内には承認されている。まさに異例の事態だ。

そうしたなかで、トランプ政権の経済政策を陰で支えてきたのが、コーン補佐官だった。NECを担当する経済担当補佐官は、経済関連の閣僚の意見を取りまとめ、政権としての方針を大統領に提案する役割を担う。その閣僚が揃わない中では、コーン補佐官の存在感が高まるのは当然の成り行きだった。

コーン補佐官の手腕が発揮されたのが、2月3日に発表された金融規制の緩和に関する大統領令だ。コーン補佐官は、議会関係者などとの事前の調整を万全に進め、波乱なく仕事をやり遂げた。大混乱となった入国禁止の大統領令とは大違いである。トランプ大統領は、近々、具体的な減税案を提示するとしているが、そこでも、議会などとの事前の調整は、コーン補佐官が進めている模様である。

コーン補佐官の前職は、米金融大手ゴールドマン・サックス社の社長兼COO(最高執行責任者)。グローバルな経済・金融の現場に触れてきたのはもちろん、組織運営の経験も豊富である。報道によれば、多い時には一日に5回も呼び出されるなど、トランプ大統領の信頼を勝ち得ているようだ。

トランプ政権と言えば、「白人至上主義」的な思想が取りざたされるバノン首席補佐官や、対中強硬派でNTC(国家通商会議)を仕切るピーター・ナバロ氏が注目されてきた。マルバニー氏やコーン氏の動静は、それほど日本では報じられてこなかったが、トランプ政権の経済政策の命運は、この二人の双肩にかかっているといえそうである。

yasui-profile.jpg安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中