最新記事

中国政治

中国の若者のナショナリズムは高まっていない──論文

2017年2月8日(水)19時50分
マット・シュレーダー

2015年8月、先勝70周年記念日を祝う中国・河北省の小学生 China Daily-REUTERS

<中国の若者は言われるほどナショナリズムには傾いておらず、むしろ好ましい方向に変化している>

中国指導部は国民のナショナリズムが自らに向くのを防ぐため、強硬な対外姿勢を取る傾向がある。南シナ海で領有権を主張したり、日本の歴史問題を執拗に追及したりするのもそのせいだというのが、欧米メディアの通説になっている。

実際、高齢化する「毛沢東主義者」もいれば「怒れる若者」(中国語で「憤青」)もいる。中国政府の「防火長城(グレート・ファイヤーウォール)」をすり抜けて、フェイスブックやツイッターに国家主義的な投稿をする「ピンク色の若者」(中国語で「小粉紅」)と呼ばれる若い女性たちもいる。

だが月初に安全保障研究の専門誌「インターナショナル・セキュリティ」に掲載された米ハーバード大学のアラステア・イアン・ジョンストン教授(政治学)による最新の論文は、中国で国家主義的傾向が強まっているという報道は、いくつかの重要な点で的外れの可能性があると指摘した。

【参考記事】「冷静に、理性的に」在日中国人のアパホテル抗議デモ

ジョンストンは1998年から北京の名門国立大学である北京大学の研究者と共同で、外交政策を含めた様々なテーマに関して、北京の住民を対象にした意識調査を行ってきた。その結果集まった「北京エリア調査」と称する珍しいデータを頼りに、ジョンストンと共同研究者らは北京市民の意識の変遷をたどり、回答者の年齢など多数の異なるカテゴリーに基づく分析を実現した。

高齢層とは正反対の意識

2002年以降の調査では、回答者の国家主義的傾向を探るための質問も加わった。そのなかで、次の意見に同意するか否か、また同意する度合いも尋ねた。

1)たとえ世界中のどの国を選べたとしても、自分は中国人でありたい
2)一般に、中国はほとんどの国より良い国だ
3)たとえ政府が間違っていても、国民の誰もが政府を支持するべきだ

論文は結論として、北京市民の間に国家主義的傾向の高まりはみられないとした。むしろ1)と3)の質問に対し「大いにそう思う」と回答した割合が2002年から15年にかけて激減した。しかし中国のほうが「他の国より良い」かどうか尋ねた2)の質問に対しては、「大いにそう思う」と答えた割合が微増した。調査開始以来、北京では個人所得もインフラも著しく改善したのだから、それは理解できる。

【参考記事】「中国がネット検閲回避のVPNを全面禁止」は誤報です

この結果からは、単に国家主義的な感情が下火になっただけでなく、中国の少なくとも都市部の若者たちは上の世代よりも国家主義的ではないことがはっきりした。1978年以降に生まれた世代では、2002年以降のどの調査でも、国家主義色の強い意見に同意すると答えた割合が上の世代より圧倒的に少なかった。最も目を見張るのは、2015年の時点で、「政府が間違っていても国民は政府を支持すべき」という意見に強く賛同した若年層の割合は、高齢層の半分になっていたことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日米関税協議、「一致点見いだせていない」と赤沢氏 

ワールド

米中、9日にロンドンで通商協議 トランプ氏が発表

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、雇用統計受け利下げ急がずと

ワールド

米、中国の原発向け関連機器の輸出許可を停止=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 4
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 7
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 8
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 9
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 10
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中