最新記事

メディア

広告ブロック利用の急増に悩む新聞界──被害額は年218億ドルにも達する

2016年8月2日(火)16時00分
小林恭子(在英ジャーナリスト)

 米経済誌フォーブズは昨年12月、広告ブロッカーを使う一部の読者にコンテンツの閲読を遮断した。閲読したい場合にはブロッカーを解除する代わりに広告が少ない形のサイトを読めるようにした。この実験によって、12月末から1月上旬までにサイトにアクセスした210万人の利用者がブロッカーを解除したという。結果として、1500万の広告インプレッションが生じ、収入を得ることができた。

 出版社側にしてみれば読者が無料で記事を閲読できるのは広告があってこそだ。このため、広告ブロッカーを使う読者に記事を読ませないようにするのは出版社側にとっては「妥当な行為」となるかもしれないが、「危険も伴う」と報告書は警告する。トラフィックを減少させる上に、「読者の一部を失うことにもつながる」からだ。

 広告ブロッカーは広告サーバーから出る広告を遮断するが、その広告が通常の記事を処理する編集管理システムの中からサイトに出るようであれば、遮断されないーこれがネイティブ広告が広告ブロッカーの対象にならないとする考え方だが、報告書は「広告ブロッカーは進化する」ため、必ずしも万全ではない可能性があるという。

 ネイティブ広告のコンサルタント、メラニー・ディーゼル氏は「搭載に時間がかかり、視界を邪魔するような広告を作ってきたことへのツケが今、回ってきた」という。質の高いデジタル広告(記事と同等の質がある広告=ネイティブ広告)を作ることで、「読者の信頼を取り戻すしかない」。

 ディーゼル氏が手掛けたのが、オンデマンド動画サービスを提供する米Netflixによる、女性受刑者を主人公とした「オレンジ・イズ・ニューブラック」にかかわるキャンペーンだ。

 媒体ごとに異なる戦略を使った。例えばテック雑誌「ワイアード」に動画ストリーミングの未来についての記事を出し、ニュースサイト、バズフィードには「刑務所がそれほど悪いところではない21の理由」と題する記事を掲載。

NYT-2.jpg
ニューヨーク・タイムズの「オレンジ・イズ・ニューブラック」の記事(ウェブサイトより)

 シリアスな新聞ニューヨーク・タイムズの場合は、刑務所の女性の処遇についての記事を出した。実際に記者が刑務所を訪れて、受刑者をインタビューした。その模様を動画としてウェブサイトに掲載したところ、大好評となった。

 報告書は結論として3つの戦略を挙げている。

 (1)広告利用環境を向上させる(広告の量を減らす、個人化する、ネイティブ広告を使う)

 (2)選択肢を用意する(ブロッカーを解除した人には広告を少なくしたサイトを用意)

 (3)モバイルに焦点を合わせる(まだブロッカーを使う人が少ないため)

 報告書は会員は無料で入手でき、非会員はウェブサイトから購入できる。

[執筆者]
小林恭子(在英ジャーナリスト)
英国、欧州のメディア状況、社会・経済・政治事情を各種媒体に寄稿中。新刊『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アルコア、第2四半期の受注は好調 関税の影響まだ見

ワールド

英シュローダー、第1四半期は98億ドル流出 中国合

ビジネス

見通し実現なら利上げ、米関税次第でシナリオは変化=

ビジネス

インタビュー:高付加価値なら米関税を克服可能、農水
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中