最新記事

新冷戦

NATOはロシアを甘く見るな──ラスムセン元NATO事務総長

2016年7月4日(月)21時35分
アナス・フォー・ラスムセン(元NATO事務総長、元デンマーク首相)

 NATO首脳国は、ロシアが昨年2月のウクライナ停戦合意を完全に履行するまでは経済制裁を続けることを再確認しなければならない。抜け駆けは許されない。イギリスのEU離脱は西側にとって衝撃だったが、その悪影響を最小限に抑えるためにも、イギリスは対GDP比2%の軍事支出を維持するとともに、ロシアに対する経済制裁を続けるべきだ。

 NATO戦力のより大きい部分を、東欧の同盟国にシフトする必要もある。バルト3国、ポーランド、ルーマニア、ブルガリアなどに陸海空軍を配備する。ロシアが威圧的な態度をとり続ける限り、駐留は終わらない。集団的なミサイル防衛システムを開発し、サイバー戦闘力を強化する必要もある。受け身の防衛から積極的な防衛、必要とあらば攻撃に出られるようにしなければならない。

将来は対等の防衛力を

 ヨーロッパの同盟国はGDPの2%を軍事支出に回す約束を、2024年頃まで守る必要がある。そうすればアメリカの次期政権の心証もよくなるだろうし、次期大統領の任期が切れる頃までには米欧間の防衛力の差も縮小するだろう。

 もちろんアメリカも応分の負担を続ける必要がある。NATOは世界で最も繁栄した国々の平和を守り、同盟国間のネットワークを維持し、世界中でアメリカを政治的軍事的に支援している。軍事支出に十分値する恩恵をもたらしているのだ。

 NATOサミットは、友好国や近隣諸国に乱暴者が手を出せば西側は座視しない、というメッセージを発するよい機会だ。だが決断力や団結力に欠けるところを見せればロシアは調子に乗って、自らの「勢力圏を守る」を口実に近隣諸国に手を出すだろう。

 ロシアの態度に変化が表れるまでには時間がかかる。だがNATOサミットが成功すれば、我々は「統一されて自由なヨーロッパ」にまた一歩、近づくことになる。

*筆者は現在、ラスムセン・グローバル会長

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ南部ザポリージャで14人負傷、ロシアの攻

ビジネス

アマゾン、第1四半期はクラウド部門売上高さえず 株

ビジネス

アップル、関税で4─6月に9億ドルコスト増 影響抑

ワールド

トランプ政権、零細事業者への関税適用免除を否定 大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中