最新記事

犯罪

コンビニATM14億円不正引き出し、管理甘い日本が狙われる

2016年5月25日(水)18時39分

「数時間のうちに(14億円も不正に引き出すことを)やってのけるとは圧巻としか言いようがない。抜け穴を使うのは分かるが、ばれずに運び屋を一国に寄せ集め、ネットワークを築くのは決して簡単なことではない」と、香港のサイバーセキュリティー専門家、ダン・ケリー氏は語った。

大量の取引

 スタンダード銀行とセブン銀行は、大量の取引を監視できなかった責任があり、通常の時間外にこれだけ多くの場所から取引が急増するなどの異変を感知するシステムを導入しておくべきだったと、専門家は指摘する。

「責任はクレジットカードを発行したスタンダード銀行にあるが、事件の捜査が進めば、加盟店銀行にも責任が及ぶだろう」と、消費者の信用リスク評価なども行う米ソフトウエア会社FICOで、アジア太平洋地域の反金融犯罪を担当するサブハシシュ・ボース氏は語った。

 専門家によると、犯行グループはさまざまな方法でデータを入手した可能性があり、恐らく「スキミング」カードを使っただろうが、現金引き出しにおいては限られた選択肢しかなかったという。

 より新しく安全性が高い「チップ・アンド・ピン」システムを導入しておらず、旧式で安全性の低い「磁気ストライプ」のカードが通用する国を選ばなくてはならなかった。

「(南アフリカの)周辺国で同カードを利用していれば、スタンダード銀の不正分析ソフトに引っかかり、引き出しはできなかった」と、前出の金融ITコンサルタントは話した。

 同様に、大半のアフリカ諸国、東欧、中東、中央アジア、ロシアでも現金を引き出せなかったと、同コンサルタントは付け加えた。

 一方、日本は、犯罪率の低さや、銀行のATMの大半が外国のカードを受け入れないことからリスクが低いとみられていると専門家は話す。

 日本は比較的孤立した状態にあることから、長い間、犯罪組織やサイバー犯罪グループのターゲットにはなっていなかったが、それは変わりつつある。にもかかわらず、対策が追い付いていないという。

「このような不正に対処する経験が浅く、監視し、不正を探知し、対応するといった点で後れを取っている」と、ストレージ(外部記憶装置)メーカー、EMCのセキュリティー部門RSAでアジア太平洋地域のサイバー犯罪を専門とするスティーブン・マコンビー氏は指摘した。

 日本では昨年、サイバー攻撃により日本年金機構の個人情報約125万件が流出した事件が起きている。

 (Jeremy Wagstaff記者、浦中大賀記者、翻訳:伊藤典子、編集:下郡美紀)

[シンガポール/東京 24日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中