最新記事

インタビュー

『オマールの壁』主演アダム・バクリに聞く

2016年4月19日(火)17時40分
大橋 希(本誌記者)

omar03.jpg

<本格派>バクリはデビュー前、有名なニューヨークのリー・ストラスバーグ劇場研究所で学んだ

――オマールとナディアの抑制的な恋愛関係が印象的だった。あのような形がパレスチナの若者の現実だろうが、途中でもどかしくも思った。

 あれがあのまま、パレスチナの人たちの恋愛だと思う。伝統的にパレスチナでは、例えばトルコやアゼルバイジャンなどでも、アラブ世界ではそういうところがある。つまり結婚前にはある一線を超えてはいけない。特にこの映画では、オマールはナディアのお兄さんととても仲がいいし、オマールはとても良心的で正直な人間だから。

 そんな彼でもキスはしてしまう。一線を越えることだと分かっていたけど、彼女を愛しているし、絶対に結婚すると思っていたから。本当は男だったらもっとキスしたかったと思うよ(笑)。

 2人が家の裏でこそこそ会っているのも本当はしてはいけないこと。実際にやっている人たちもいるが、一般的じゃないと思う。

 なぜそうした伝統的なものが根強いかというと、占領された状況ではより閉鎖的に、新しい文化に対してオープンでなくなるからではないか。自由に暮らす人たちよりも、自分たちの習慣などに固執してしまうのだと思う。

――俳優という立場だと、パレスチナ問題について語るのは難しい?

 そんなことはない。昔はそういう話はあまりできないかなと思ったが、今は全然気にしない。イスラエルの最高裁でさえ、あれは違法なことだと言っている。私はアーティストだし政治に興味はないが、この問題は政治ですらないと思う。明らかに違法で、不道徳で非人間的なことだから。

【参考記事】パレスチナ人の一斉蜂起「インティファーダ」は防げるか

 『オマールの壁』はそういうことについての映画。占領下では日々の生活の些細な物事がどうなるのかを物語る。そこでは愛のようなシンプルなものでさえ、うまく機能することができない。

――なぜ以前は話すことが難しかったのか。

 若くて、よく分かっていなかったから。占領のことや歴史的なこと、これまでに起きた戦争についてあまり知らなかった。混乱していたというのもある。それに、すごくシャイだった。シャイなのは今でもそうだけど(笑)。

――撮影中に大変だったことは?

 最後の方にオマールが壁から落ちるところがあるが、あれは本当に落ちたんだ。いまだにときどき、気候や状況によっては背中が痛んで、マッサージしてもらわないといけない。ほかにもいくつかエピソードはあるが、あれがいちばん大きい。でも大変だったとはいえ、少なくとも映画には残った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ワールド

ウクライナ南部オデーサに無人機攻撃、2人死亡・15

ビジネス

見通し実現なら利上げ、不確実性高く2%実現の確度で

ワールド

米下院、カリフォルニア州の環境規制承認取り消し法案
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中