最新記事

中東

パレスチナ絶望の20年

20年前の1発の銃弾が平和的解決の道を葬った。パレスチナ和平の道はいかについえたのか

2015年11月4日(水)17時30分
ジョナサン・ブローダー(外交・安全保障担当)、 ジャック・ムーア

対立の激化 反イスラエルデモでナイフを掲げるパレスチナ人の少年(ガザ) Abed Zagout-Pacific Press-Light Rocket /Getty Images

 20年前の11月4日、過激なユダヤ人の若者イガル・アミルが当時のイスラエル首相で平和主義者のイツハク・ラビンを背後から銃撃し、殺害した。そしてパレスチナ紛争の解決と平和への希望も葬った。

 政治家の暗殺が、必ずしもその国の未来を変えるとは限らない。だが20年前の凶弾は、ユダヤ人とパレスチナ人の共存共栄を目指す和平プロセスに壊滅的な打撃を与えた。

 その後の両者は深まる憎悪と実りなき交渉、拡大する暴力の出口なき悪循環に陥っている。憎しみに火が付けば血が流れる。この冷酷な事実が、ラビン暗殺の忌むべき遺産だ。

 今も聖地エルサレムやヨルダン川西岸、そしてガザ地区の境界線で殺し合いが続いている。バス停であれ商店であれ路上であれ、ユダヤ人とパレスチナ人が顔を合わせる場所ならどこで血が流れてもおかしくない。

 パレスチナ側には、これを「第3次インティファーダ」と呼ぶ向きもある。インティファーダは、1967年以来のイスラエルによる占領支配に対する民衆の武装蜂起を意味する。

 だが実際には、87年12月に始まった最初のインティファーダが今も続いているとみたほうがいい。93年のオスロ合意後に一度は沈静化したが、期待された和平プロセスはラビン暗殺で頓挫し、争いだけが続いた。

 ビル・クリントン米大統領の仲介した00年の和平交渉が失敗に終わると、パレスチナの過激派組織ハマスはテロ攻撃を再開。一連の自爆テロで1000人近いユダヤ人を殺害した。イスラエル側は、パレスチナ自治区ガザとの境界線や西岸の入植地に巨大な防御壁を築き、パレスチナ人が立ち入れないようにした。

 そして今、アメリカが両者の仲介を中断して5カ月以上が経過するなか、絶望したパレスチナの若者たちはナイフやドライバーを握り締めてユダヤ人に襲い掛かっている。もちろん、イスラエルの警官に射殺されるのは覚悟の上だ。

 イスラエル側は、エルサレム旧市街にある聖地(イスラム教のモスクがあるが、ユダヤ人にとっての聖地「神殿の丘」でもある)を守れと呼び掛けたパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長を非難している。

2人の勇敢で危険な賭け

 だがアッバスの呼び掛けは、イスラエルの右派議員らによる物騒な要求に対抗するものだ。彼ら超保守派のユダヤ教徒は、聖地でのユダヤ人礼拝を禁じた半世紀前の取り決めを変えるよう求めている。イスラエル政府は現状の変更を否定しているが、それでもパレスチナ側の暴力は収まらない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、20万8000件と横ばい 4月

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中