最新記事

中国

毛沢東は抗日戦勝記念を祝ったことがない

2015年8月26日(水)18時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

●1955年~59年:抗日戦勝に関しては一切触れていない。もちろん国内行事はゼロ!

 このように1950年代、中ソ対立が生まれる1955年までは、ただ単にソ連に祝電(謝意)を送っているだけである。つまり、「抗日戦争はソ連のお蔭で勝利した」という位置づけをしていることが分かる。

1960年以降~毛沢東逝去(1976年9月9日)まで

●1960年:抗日戦勝行事は一切なし。

 ただし、9月1日にメキシコ代表と対談し「日本人民は素晴らしい人民だ。第二次世界大戦では一部の軍国主義者に騙されて侵略戦争をしただけだ。戦後はアメリカ帝国主義に侵略され、日本にアメリカ軍の基地を作っている。アメリカ侵略国家は台湾にも軍事基地を置き、我が国を侵略しているのは許せないことだ」という趣旨のことを語っている。

●1961年~1969年:抗日戦勝行事は一切なし。ただし1965年から、10年ごとに記念切手を出している。

●1970年~1976年:抗日戦勝行事は一切なし。
 ただし、1972年9月には、日本の田中角栄元首相の訪中と日中国交正常化に関する記述に多くのページが割かれ、日本を讃えている。

 国交正常化したからと言って、突然、そのあとに対日強硬路線を取る傾向は皆無で、日本に対して非常に友好的だ。

 以上見てきたように、現在の中国(中華人民共和国)を建国した毛沢東は、中国とは、「中共軍が日本軍を打倒して誕生した国」だとは思っていない。中国国内における抗日戦勝は主として国民党軍がもたらしたものと知っている。自分自身が戦ってきたのだから、完全に分かっている。

 もし、抗日戦勝日を祝えば、まるで「国民党を讃える」ということになってしまう。

 それを避けるためにも、毛沢東は抗日戦勝記念日を祝おうとはしなかったのである。

 そして中国とは、国民党軍を倒して誕生した国であると認識しているので、建国記念日である国慶節(10月1日)は、毎年盛大に祝っている。正常な感覚だ。

 8月10日付の本コラム戦後70年有識者報告書、中国関係部分は認識不足に書いたように、安倍談話に向けた日本の有識者懇談会が出した報告書の4の「(1)中国との和解の70年」の「ア 終戦から国交正常化まで」には、とんでもない間違いが書いてあった。その文言は「一方、中華人民共和国に目を向けると、1950年代半ばに共産党一党独裁が確立され、共産党は日本に厳しい歴史教育、いわゆる抗日教育を行うようになった」というものだが、これがいかに間違っているかは、今回のコラムをお目通し頂ければ一目瞭然だろう。

 日本の「有識者」は、最近の中国の現象から過去を推測しているのだろうか、あるいは中共の宣伝に洗脳されてしまっているのだろうか。

 毛沢東は「日本に厳しい歴史教育や反日教育」などしていないどころか、抗日戦勝記念日さえ無視してきたのである。

 問題は、それに比べた現在の中国、特に習近平政権の「抗日戦勝と反ファシスト戦勝70周年記念」に対する、あまりの熱狂ぶりだ。

 抗日戦争勝利の日から遠ざかれば遠ざかるほど熱狂的になり、なりふりをかまわず歴史を歪めている。

※関連記事「抗日戦勝記念式典は、いつから強化されたのか?」はこちら

[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-インタビュー:日銀の追加利上げ慎重に、高市氏

ビジネス

仏トタルや独シーメンス、EUに企業持続可能性規則の

ワールド

米政府機関閉鎖、共和・民主双方に責任と世論=ロイタ

ビジネス

午前の日経平均は反落、利益確定売り優勢 好決算銘柄
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 3
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 4
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 5
    50代女性の睡眠時間を奪うのは高校生の子どもの弁当…
  • 6
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 7
    史上最大級の航空ミステリー、太平洋上で消息を絶っ…
  • 8
    底知れぬエジプトの「可能性」を日本が引き出す理由─…
  • 9
    いよいよ現実のものになった、AIが人間の雇用を奪う…
  • 10
    米、ガザ戦争などの財政負担が300億ドルを突破──突出…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 8
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 9
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 10
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中