最新記事

イラク

ISIS国家への冷ややかな反応

バグダディの高らかな建国宣言を支持する世界の過激派はごくわずか

2014年7月17日(木)15時34分
ジョシュア・キーティング

世界の指導者? 長年に及ぶ潜伏の末、モスルのモスクに姿を現したバグダディ Al-Furqan Media/Anadolu Agency/Getty Images

 イラクでイスラム国家樹立を宣言したスンニ派テロ組織ISIS(イラク・シリア・イスラム国、別名ISIL)の指導者アブ・バクル・アル・バグダディは長い間、鳴りを潜めてきた。これまでに出回っている彼の写真は、わずか2枚しかない。

 だから彼が先月末、公の場に姿を現したのは大きな衝撃だった。場所はISISが制圧したイラク第2の都市、北部のモスルにあるグランド・モスク。黒いガウンをまとい、派手な腕時計を着けて現れたバグダディの姿は映像でも公開された。

 この「初お目見え」の数日前に、バグダディは自身を「カリフ(最高権威者)」であると宣言していた。新たに建設したイスラム国家「イスラム国」のみならず、世界の全イスラム教徒の絶対的指導者である、と。

 もちろん国際社会は、7〜13世紀に存在したカリフ制イスラム帝国を復活させようというバグダディを受け入れるつもりはない。それでも世界各地のアルカイダ系武装組織がどのような反応を示すのか、興味深い。

 ISISはかなり前からアルカイダの幹部らと対立しており、「建国宣言」は、ウサマ・ビンラディンの後継者アイマン・アル・ザワヒリに対する挑戦だ。ザワヒリはまだ口を閉ざしているが、反応を示すとすれば、かなり痛烈な批判になるだろう。

 これまでのところ、他のイスラム過激派組織がバグダディに相次ぎ忠誠を誓っているという事実はない。シリアでは、アルカイダの分派であるアルヌスラ戦線をはじめ多くの過激派が建国宣言を非難している。

 他方、バグダディへの支持を表明しているのは、エジプトやリビアのいくつかの武装組織と、「パキスタン・タリバン運動(TTP)」や「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の一部。だがAQAPの幹部クラスや、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」からは何の声も聞こえてこない。

 つまり、バグダディは建国宣言をして権力を誇示したはいいが、彼が従えていると主張する世界の武装組織からは大した支持を得ていない。「ISISが建国パーティーを催したのに、誰も参加しなかったようだ」と、ISISに詳しいJ・M・バーガーは指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、28年にROE13%超目標 中期経営計画

ビジネス

米建設支出、8月は前月比0.2%増 7月から予想外

ビジネス

カナダCPI、10月は前年比+2.2%に鈍化 ガソ

ワールド

EU、ウクライナ支援で3案提示 欧州委員長「組み合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 7
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 8
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 9
    経営・管理ビザの値上げで、中国人の「日本夢」が消…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中