最新記事

朝鮮半島

北朝鮮を「愛する」韓国政治家たち

国家転覆を画策した容疑で左翼政党議員が逮捕されたのは、韓国保守政権の不正隠しのための陰謀か

2013年10月23日(水)13時42分
ジェフリー・ケイン

スパイを警戒 韓国の政治家と北朝鮮の距離は意外に近い Lee Jae-Won-Reuters

 1年半前に韓国の国会議員になって以来、金在妍(キム・ジェヨン、33)は「北朝鮮のシンパ」「左翼のゾンビ」などと呼ばれてきた。どれも、韓国のネット右翼がリベラル派や社会主義者を揶揄するときに使う呼称だ。

 そんな右翼に目の敵にされている若き活動家の金だが、その素顔は愛嬌のある魅力的な女性だ。しかし先日の緊急記者会見では、金の顔にいつもの笑顔はなかった。会見の内容とは、彼女が所属する統合進歩党の一部議員が北朝鮮のために韓国政府を転覆させるという陰謀に関与しているとの疑惑について再度釈明するものだった。

 騒ぎは1カ月以上前に始まっていた。統合進歩党の議員で歯に衣着せぬ発言で知られる李石基(イ・ソッキ、51)が5月に130人の仲間を集めて「密会」を開いていた証拠を、韓国の情報機関である国家情報院(NIS)がつかんだためだ。李は北朝鮮との戦争が起こった際、韓国政府に対し蜂起するための武器を確保するよう仲間に命じたという。当局によると、この時の会話は録音されている。

 韓国で北朝鮮の側に立つことは、状況によっては刑務所行きを意味する。おそらく李はそうなるだろう。議員の免責特権を剥奪され事務所で逮捕された彼は、韓国が87年に民主化して以降、内乱陰謀・扇動の容疑で逮捕された初の国会議員だ。彼の逮捕以来、捜査対象は拡大され、金を含む統合進歩党党員10人がNISから尋問される可能性も出てきた。

 この騒動の中心には、親北とされる京畿東部連合の存在があると、北朝鮮専門のニュースサイト「デイリーNK」のクリス・グリーンは言う。京畿東部連合は、北朝鮮との平和的な統一を阻止しているとの理由で在韓米軍の撤退を模索するグループの中でも過激な一派にいた学生が91年に立ち上げた組織だ。京畿東部連合は統合進歩党の最大派閥でもある。当局によれば、この連合の一員である李が、他のメンバーに国家への反乱をけしかけたという。

国防の機密情報は安全?

 だが過去5年間で京畿東部連合の過激派的な性格は薄れたとグリーンは指摘する。実際、連合から数人の国会議員も送り出した。ただしその狙いは、グリーンいわく「おそらく国防などの機密情報を手に入れることだろう」。

 金は、保守的な政府が統合進歩党をやり玉に挙げて自らの不正をごまかそうとしていると言う。「NISは大統領選挙時の不正を隠蔽しようとしている」
この8月、NISの前院長が起訴された。昨年末の大統領選で、NISが保守派候補で現大統領の朴槿恵(パク・クネ)が優位になるようネット上でプロパガンダを画策したという容疑だ。

 金は、韓国全体が現代版「赤(共産主義)の恐怖」にとらわれていると主張する。「朝鮮半島の分断を利用することで保守政党は選挙戦で優位に立ってきた。彼らの目的は、私たちをスケープゴートにして世論の目をNISの不祥事からそらし、統合進歩党を北朝鮮と同列に扱うことだ」。李が逮捕されたタイミングを考えれば、この主張は正しいかもしれない。

 グリーンは、京畿東部連合がいくら親北でも韓国の安全保障に深刻な脅威を与えているとは思っていない。ただ「李と金が、韓国内にいる脱北者の住所など国防に関する機密情報を入手していたとしたら危険だった」。

 これこそ、統合進歩党の議員が国会に席を置くことに、韓国国民の大半が不安を抱く理由だ。知識層はこう願っている。統合進歩党の議員がいなくなってくれればありがたい、と。

[2013年10月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は反落、一時700円超安 前日の上げ

ワールド

トルコのロシア産ウラル原油輸入、3月は過去最高=L

ワールド

中国石炭価格は底入れ、今年は昨年高値更新へ=業界団

ワールド

カナダLNGエナジー、ベネズエラで炭化水素開発契約
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中