最新記事

パラリンピック

義足ランナー「彼の義足は長過ぎる」

自分が負けたのは相手の義足が長過ぎたからだと批判した「障害者アスリートの星」の言い分

2012年9月4日(火)18時36分
タリア・ラルフ

場外乱闘 レースを終えたオリベイラ(右)とピストリウスだが Eddie Keogh-Reuters

 南アフリカのオスカー・ピストリウスは、ロンドン五輪(健常者向け)の陸上男子1600メートルリレーに義足で出場した障害者アスリートの希望の星。だが続くパラリンピックの陸上男子200メートル(下腿切断などT44クラス)の決勝では、2大会連続金メダルを狙うピストリウスが、ゴール直前の20メートルでアラン・オリベイラ(ブラジル)に追い抜かれる波乱の結末に終わった。

 だがレースの結果以上に注目を集めたのは、試合後のビストリウスの発言だ。彼は試合後のインタビューで、優勝したオリベイラの義足が「長すぎる」と批判し、選手の身長が「不自然に高い」状況を許している現行ルールに不満をにじませた。

 これに対してオリベイラは、ピストリウスは憧れの存在であり、批判されるのはつらいと語った。「私の義足の長さに問題はない。すべての審査を通過しており、ピストリウスもその点は承知しているはずだ」

 国際パラリンピック委員会(IPC)も3日、すべての選手の義足は2年前に定められた身長などの規定に基づいてチェックされており、オリベイラに違反行為はなかったと明言した。

 義足が長過ぎる、という批判はパラリンピックでは今に始まったことではない。2004年には、ピストリウスのほうが批判を受ける立場だった。両足を失った選手の場合、こうした問題は避けられない。ピストリウスは幼少時に両膝下を切断したため、彼の身長を正確に推測するのは容易ではない。こうしたときのために、IPCは両腕を横に広げたときの幅などを基に、ありえた最高身長を割り出す公式を使っている。

ビストリウスの主張に潜む矛盾点

 試合直後の興奮から冷めたのだろうか、ピストリウスは3日、自分の発言によって「他の選手の勝利から注目をそらさせるつもりはなかった。発言のタイミングについて謝罪したい」との声明を発表した。

 ただし「(義足のサイズに関する規定について)は問題があると信じており、IPCと話し合う機会があれば歓迎する」とも主張。「スポーツの公平性を信じている。同じ問題意識をもつIPCと協働できればうれしい」

 これを受けて、IPCは9月中にピストリウスと公式に会談し、「スタジアムの熱狂から離れた正式な場で彼の疑問を取り上げる」ことを約束した。

 もっとも、こうした幕引きに納得できない人もいる。CBSのスポーツコラムニスト、グレッグ・ドイエルは、ピストリウスの騒ぎ方は自己中心的すぎると非難した。

 ピストリウスは「(健常者向けの)ロンドン五輪で、自分の義足より重い下肢をもつ(健常者の)選手たちと競うのは問題ないという。伸縮性の高いカーボン製の義足では自動的にできる動きをするために、一般の選手がエネルギーを使わなければならないのも問題ないという」と、ドイエルは書いた。「義足のメリットが自分のプラスに働くときは義足を容認しながら、相手のプラスになったら文句を言っている」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中