最新記事

少子化

中国は先進国になれない

2012年1月5日(木)11時43分
千葉香代子(本紙記者)

「人口ボーナス」の衝撃

 中所得国から高所得国へのハードルはとりわけ高く、過去にはアルゼンチン、ブラジルなどの中南米諸国や旧東欧諸国が飛び越えようとして挫折してきた。日本や香港、台湾、シンガポール、韓国の成功は「東アジアの奇跡」と受け止められている。

 だが中国の「奇跡」への仲間入りは実現しそうにない。資産バブルやインフレ、不良債権問題など長年の懸案ゆえではない。コピー商品と非効率な国有企業が今ものさばり、腐敗が蔓延しているからでもない。

 中国が抱え込んでいるのは、解決困難な構造問題だ。中国は世界で初めて、1人当たりGDPが先進国の水準に達する前に生産年齢人口の急減と急速な少子高齢化を経験する国になる。このことが、克服し難い大きな負担になる。

「人口学的分析では、中国は国民の富裕化より高齢化のほうが急速に進み、社会保障を整える前に高齢化社会に入る。危機的な社会状況だ」と、フランスの人口学者エマニュエル・トッドはロイター通信に語っている。

 決して遠い先の話ではない。大和総研の中国担当シニアエコノミスト齋藤尚登によれば、中国の2桁近い高成長が続くのはあと5年ほどで、その後は次第に減速し、20年以降は5〜6%に落ちる。今なら大量の失業者が出る低成長に中国が陥るのは、インフレのためでもバブル崩壊のためでもなく、10年後には労働力が足りなくなるため、そのレベルの成長しかできなくなるからだ。

 真の豊かさを達成する前に人口が減り始める衝撃の大きさは、前例がないだけにはっきりとは分からない。だが、先進国の仲間入りも時間の問題と思われてきたアジアの超大国のイメージは、少なくとも下方修正する必要があるだろう。

 中国の少子高齢化の経済に対するインパクトが注目され始めたのは、東アジアの奇跡を解明しようとしたハーバード大学の人口学者デービッド・ブルームらの研究と関係がある。彼らが10年ほど前に特定した「人口ボーナス(恩恵)」と「人口オーナス(負担)」の経済に与える影響の大きさが、次第に広く認識されるようになったのだ。

 多くの途上国がいつまでも貧困から抜け出せない最大の要因は、子供が多過ぎるためだ。労働力にならない子供の数が多いほど社会全体の負担は増えるのに、教育レベルの低さや飢餓や病気で死ぬリスクを恐れて母親はたくさん産んでしまう。

 だがいったん社会が豊かになり始めると、出生率は下がって社会の中で扶養しなければならない子供の比率は減る。その結果、生産年齢人口の比率が相対的に最も大きくなる経済成長に最適の人口構成が表れる。これが「人口ボーナス」といわれる現象だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハリス氏と数回の討論会行う用意と表明 

ワールド

米俳優クルーニーさん、ハリス氏を支持 民主党大統領

ワールド

トランプ氏、訪米中のネタニヤフ氏と26日に会談へ

ワールド

米警護隊長官が辞任、トランプ氏銃撃巡り引責
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 3
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 6
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 7
    中国海軍、ロシアの手引きでNATOの海を堂々と正面突…
  • 8
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 9
    「これは無理」「消防署に電話を」出入口にのさばる…
  • 10
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 1
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい」と話題に
  • 2
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 3
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 4
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 5
    出産間近!ヨルダン・ラジワ皇太子妃が「ロングワンピ…
  • 6
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 7
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 8
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 9
    トランプが銃撃を語る電話音声が流出「バイデンは親…
  • 10
    AI生成の「ネコ顔の花」に騙される人が続出!? ニ…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 6
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 9
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
  • 10
    携帯契約での「読み取り義務化」は、マイナンバーカ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中