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軍事介入

米軍リビア「撤退」が招く新たな火ダネ

空爆や地上部隊派遣を行わない一方で、CIAの秘密工作を進める戦略の落とし穴

2011年4月4日(月)18時13分

苦戦中 劣勢の反政府勢力に対し、武器を供与すべきかという議論が欧米では高まっている(ブレガ近郊、3月30日) Finbarr O'Reilly-Reuters

 アメリカは4月2日をもって多国籍軍によるリビア空爆から撤退し、空爆に関する全指揮権をNATO(北大西洋条約機構)に委ねる。反政府勢力に軍事訓練や武器供与などの支援を行う予定もない──。ロバート・ゲーツ米国防長官は3月31日、マイク・ミューレン統合参謀本部議長と共に米議会下院軍事委員会の公聴会に出席し、リビアからの米軍を「撤退」させる方針を明らかにした。

 さらにゲーツは、カダフィ大佐は「反体制派を潰すために必要な人数を殺害する」だろうが、「私がこの職にあるかぎり」は米軍の地上部隊をリビアに展開することはないと明言。「反体制派への(軍事訓練などの)支援が今後行われるとしても、アメリカ以外の多くの国がその任務に当たると思う」と語った。

 ゲーツの発言を受け、米下院議員の間では「リビア国民を保護し、政府軍を倒す戦略の要であるはずの作戦から、なぜ手を引くのか」という疑問の声が上がっているという。

 AP通信によれば、上院議員からも批判が噴出。ジョン・マケイン上院議員(共和党)は、リビア政府軍が主導権を奪還しつつある中での撤退表明は「最高のタイミングだ」と皮肉った。

 多国籍軍による空爆を後ろ盾に得ながらも、軍備が不十分なためカダフィ政権を追い詰められずにいる反体制派に対し、武器を提供すべきかという議論が欧米諸国の間で高まっている。

 しかしゲーツは、「反体制派にどんな形の支援をすべきか検討するのは、次の段階の話だ。同盟国は皆、アメリカと同様に結論を出していない」と語っている。

CIAの関与がもたらす長期的リスク

 一方で、CIA(米中央情報局)がリビアに秘密工作部隊を送り込んだとの情報も報じられている。バラク・オバマ米大統領が地上部隊の派遣はないとテレビ演説で請け負ったわずか数日後に、CIAの関与が明らかになり、ワシントンで議論が沸き起こった。

 なぜこのタイミングでCIAをリビアへ送り込んだのか。匿名を条件にAP通信の取材に応じた情報筋によれば、3月21日に米軍のF-15E戦闘機が故障のためリビア国内で墜落し、乗組員の救助作戦にCIAが関与したという。

 ワシントン・ポスト紙は、オバマの命を受けたCIAの工作員チームが反体制派の素性と能力を探るためにリビアに潜入したと報じた。アルカイダを始めとする過激派組織が、リビアの反政府運動に潜入することを懸念しての動きとも考えられる。

「この手の作戦は大きなリスクを伴う」と、同紙は指摘する。「歴史を振り返れば、CIAの作戦が予想しなかった形でアメリカの国益を損なうケースが数多くある。最も破滅的な事例は、1980年代のアフガニスタンへの支援かもしれない。CIAはアフガニスタンのイスラム武装勢力を支援してソ連を撤退させることに成功した。しかし、それがアルカイダなどの武装集団の台頭を招いた面もある」

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