最新記事

キリスト教

反モスク聖職者の無差別説教テロ

モスク建設計画に対抗して「9.11キリスト教センター」を作った伝道師の罵倒リストと危ういメディア戦略

2010年9月7日(火)18時35分
マッケイ・コピンズ

論争の的 グラウンド・ゼロ近くのモスク建設計画をめぐり、賛成派と反対派が入り乱れてデモ行進した(8月25日) Lucas Jackson-Reuters

 何かと物議を醸すネット伝道師、ビル・ケラーの説教はわずか20分足らずだったが、そのかなりの時間が私を罵倒する言葉に費やされていた。

 といっても、私はイスラム教徒ではない(ケラーは自身のサイトで、イスラム教を「小児性愛者のための素晴らしい宗教」と呼んでいる)。ケラーが嫌悪する同性愛者でもないし、無神論者でもガンジーでもない(ケラーはガンジーについて、「いい奴だったのかもしれない」と言いつつも非難を続けている)。

 私がケラーの「罵倒リスト」入りしたのはモルモン教徒だから。ケラーに言わせれば、「地獄から来たカルト」宗教だ。

 フロリダ在住のネット伝道師ケラーは先日、マンハッタンの「9・11キリスト教センター」で初の日曜礼拝を行った。9・11キリスト教センターとは、グラウンド・ゼロ(9・11テロが起きた世界貿易センタービル跡地)の近くにイスラム教のモスクが建設される計画に対抗してケラーが立ち上げた組織で、マンハッタン中部のマリオットホテル内のダンスホールを会場にしている。

 ケラーはより永続的に使える場所が見つかるまで、このダンスホールで毎週日曜に説教を行うとしている。福音派の聖職者らが説教を行い「魂を救済」する拠点として、専用の施設を借りる計画もあるが、来年1月までは準備が整わない。その間もケラーは礼拝を開催し続け、キリスト教の優越性を示すためにアラーの神の邪悪さを説くという。

メディアを驚かすのが常套手段

 もっとも、ケラーにとって初めての礼拝が示したのは、彼がメディアの扱いに長けていることだった。60〜70人ほどの出席者のうち、約20人は報道関係者。つまり、ケラーの扇動的な言動は、ニューヨーク在住のキリスト教徒よりもメディアに受けているわけだ。会場に集まった一般の聴衆の多くは白人の中年夫婦と若者だったが、彼らの存在は舞台装置でしかない。主役はケラーであり、彼が説教する相手はカメラだった。

 ヘブライの預言者エリヤが、異教徒の神バアルの信者たちに一人で勇敢に立ち向かったという旧約聖書の話を持ち出した後、ケラーはある人物を話題にして、見出しを飾る言葉を必死で探している記者たちに格好のネタを与えた。

「現代のバアルというべき2人について話したい。グレン・ベックとファイサル・アブドゥル・ラウフ導師だ」

 保守系トーク番組の司会者グレン・ベックは、8月末のキング牧師演説記念日にキングゆかりの地であえて保守派の大集会を開いた人物。一方のラウフは、グラウンド・ゼロ付近のモスク建設計画の中心人物であるイスラム指導者だ。つまりケラーは、この1カ月間、メディアを最もにぎわしてきた2人を攻撃対象に選んだのだ。

 モルモン教徒のベックについて、ケラーはこう評した。「彼が30〜40万人のティーパーティー支持者をワシントンに集めたのは素晴らしい。見事だった。でも、アメリカが神の元に立ち返るべきだという彼のメッセージには中身がない。問題は、彼がキリストを信じていないこと。ベックが何百万人ものラジオやテレビ番組の視聴者を集めてキリスト教の進学論を語り始めたら、人々に真っ赤な嘘を教えることになる」
 
 一方、ラウフに対しては「憎しみと暴力、死の宗教であるイスラムの教義を教えている」と批判。さらにケラーは、ラウフは「ムスリムの偉大な軍事的功績」を称えるために「勝利のモスク」を建設しようとしているとも話した。

辛辣すぎてテレビ番組が中止に

 こうした説教だけでは記事のネタとして不十分だった場合に備えて、ケラーは礼拝直後に長時間の記者会見まで開いた。懐疑的な記者たちの前に立ったケラーは自信に満ちた様子で、事前に練り上げた回答を繰り出した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

9月の米雇用、民間データで停滞示唆 FRBは利下げ

ビジネス

NY外為市場=ドルが対ユーロ・円で上昇、政府閉鎖の

ワールド

ハマスに米ガザ和平案の受け入れ促す、カタール・トル

ワールド

米のウクライナへのトマホーク供与の公算小=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中