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がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の定説に挑む、3人の日本人科学者と外科医

2026年2月11日(水)10時10分
石沢武彰 (大阪公立大学大学院医学研究科 肝胆膵外科学教授)

さて、僕たちのエネルギー源である「ブドウ糖」。化学的にはD(右)-グルコースだ。一方、構造的にはその鏡像異性体(立体構造が鏡に映したように左右逆の関係にある)である「L(左)-グルコース」が存在しうる。

しかし何故か、今の自然界にはL-グルコースは存在せず、したがって生物はこれをエネルギー利用できない。それが、科学の「定説」なのだ。


「鏡の世界のブドウ糖」をカギにがんの正体に迫る

だが日本には、この常識に挑戦する3人の科学者がいる。ひとり目は、弘前大学の山田勝也先生だ。彼は、ブドウ糖の体内動態をリアルタイムに観察するために、D-グルコースに小さな蛍光基をつけた化合物を開発した。

2人目は、筑波大学の中村顕先生。広大な大学構内の土壌の中から、L-グルコースをエネルギーとして利用できる細菌を発見し、彼らが持つ独自の代謝経路を解明した。進化系統が大きく異なる別の細菌が、また違う経路でL-グルコースを利用できることも確認された。

最後は、北海道大学の奥山正幸先生。自然界から、L-グルコースのグルコシド結合を加水分解する(糖と他の化合物との結合をほどく)酵素を発見した。しかも、この酵素を持つ微生物は、隕石の衝突でできたインドの湖に生息するらしい。

僕は、大学院時代から研究した「蛍光イメージング」を接点に山田先生と知り合ったのだが、この壮大なテーマに心惹かれ、今は患者のがん組織がL-グルコースを利用できるか検証する研究を大阪公立大学(OMU)でスタートさせている。

10億のがん細胞のうち、L-グルコースを取り込むものは0.01%(=10万個)にすぎないかもしれない。しかしこの集団こそ、従来の抗がん剤や放射線治療に耐えて体内で生き残り、あるタイミングで増殖を再開し患者を蝕む「悪の枢軸(がん幹細胞)」である可能性も想定される。

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