最新記事

AI vs. 癌

がん治療により効果的で安全な薬を開発する、特許取得済みAIシステム

2019年10月16日(水)11時05分
ノア・ミラー

Mohammed Haneefa Nizamudeen-iStock.

<新薬開発プロセスの効率化で、少しでも早く安全な癌の治療薬を届けようとしているバイオテクノロジー企業がある。プレシジョン・メディシン(精密医療)を取り上げた本誌「AI vs. 癌」特集より>

米バイオテクノロジー企業のアトムワイズは、特許を取得した人工知能(AI)システムを使って、どの癌治療薬がより効果的で安全かを予測する手法を確立しようとしている。共同創業者でCEOのエイブラハム・ハイフェッツに本誌ノア・ミラーが聞いた。

◇ ◇ ◇

――最終的な目標は?

より効果的で安全な薬を開発すること、そして、薬を少しでも早く患者に届けることだ。

――どのような取り組みを?

暴走して病気を進行させる細胞を軌道修正させる方法と、細胞が成長と分裂を繰り返す原因を探っている。体内のタンパク質を組立ライン上の機械に見立ててみよう。細胞の成長と分裂を管理する機械が壊れて暴走すると、細胞の成長と分裂が止まらなくなり、腫瘍ができて癌になる。そんなとき、機械に障害物を投げ込めば、機械がそれを壊すことに夢中になる(ため、細胞の異常な成長と分裂は止まる)だろう。

現在、新薬の開発には約15年と数十億ドルがかかる。適切な治療を受けられずに1日が過ぎるたびに、人間の命と健康がむしばまれていく。

――どのようにして適切な薬を見つけるのか。

どの業界でも製品の設計にコンピューターを使っている。しかし製薬業界は、試作品を1つずつ実際に作って実験しなければならない。

新しい飛行機の設計なら、まず1000種類の翼をシミュレーションする。コンピューターが「88番は低燃費で音も静かだ」と割り出し、数千通りのシミュレーションを行った上でようやく試作品を造る。

このような効率性と設計プロセスを、生物学と新薬開発の分野にも導入しようとしている。

――AIとディープラーニングを使って?

そのとおりだ。共同創業者のイジー(イズヘール・ウォーラック)と私がトロント大学の大学院で生物学の計算処理を研究していたとき、同じフロアに偶然、ジェフリー・ヒントン教授のチームがいた。ヒントンは「ディープラーニング革命の父」の1人として、コンピューター科学のノーベル賞とも言われるチューリング賞を受賞している。

彼らの研究を最も初期から見ていた私たちは、画像認識と音声認識の技術を分子の認識に応用できると考えた。

magSR191015aicancercode-2.jpg

アトムワイズの共同創業者でCEO、エイブラハム・ハイフェッツ Illustration by Alex Fine

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

将来の利下げ回数、賃金など次第 FRBに左右されず

ビジネス

米新規失業保険申請23.1万件、予想以上に増加 約

ワールド

イスラエル、戦争の目的達成に必要なことは何でも実施

ワールド

フーシ派指導者、イスラエル物資輸送に関わる全船舶を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 3

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 4

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 5

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    「高齢者は粗食にしたほうがよい」は大間違い、肉を…

  • 10

    総選挙大勝、それでも韓国進歩派に走る深い断層線

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 9

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中