海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
アジ、タカハナダイ、金魚が同じ水槽内を泳いでいる。「好適環境水」では、淡水魚と海水魚が同居できるのだ
<岡山理科大学が開発した「好適環境水」の応用範囲は、養殖を通じた地域振興から宇宙での食糧供給までと幅広い>
日本企業のたとえ小さな取り組みであっても、メディアが広く伝えていけば、共感を生み、新たなアイデアにつながり、社会課題の解決に近づいていく──。そのような発信の場をつくることをミッションに、ニューズウィーク日本版が立ち上げた「SDGsアワード」は今年、3年目を迎えました。
私たちは今年も、日本企業によるSDGsの取り組みを積極的に情報発信していきます。
地球温暖化や海洋汚染が進行する中、従来の漁業や海水養殖は限界が近づきつつある。赤潮やマイクロプラスチックなど外的要因によるリスク、漁業従事者の高齢化と後継者不足、資源の枯渇といった問題が山積する中、陸上養殖への期待は高い。
学校法人加計学園岡山理科大学では、そうした課題に対する解として「好適環境水」を用いた閉鎖循環型の持続可能な養殖技術の確立を進めてきた。
魚へのストレスが少なく、成長速度が加速
1964年に開学した岡山理科大学は、中国・四国地方で最大規模を誇る私立大学だ。理学・工学・生命科学・獣医学など9学部1コースを擁し、研究活動にも注力。タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの「世界大学ランキング2026」では国内52位タイにランクインしており、その実績は国内外で評価されている。
なかでも注目されるのが、生命科学部生物科学科の山本俊政准教授が主導する好適環境水による陸上養殖研究だ。この技術は、魚に必要なミネラル成分のみを残して海水を再構成した飼育水で、海水魚と淡水魚を同一環境で育てられるという特長を持つ。
2006年に開発に成功して以来、国内外で14件の特許を取得。クロマグロ、トラフグ、ニホンウナギなど多数の魚種の養殖に使われてきた。
開発のきっかけは、研究室の学生たちの間で起きた「水の奪い合い」だった。海水を車で1時間かけて運ばなくてはならず、研究環境は逼迫、学生はたびたび水を巡ってけんかを起こしていた。
そんな中、「(入手が難しい海水ではなく)淡水で、海のプランクトンを作りたい」という一人の学生の好奇心とその実験の成功が、山本氏に「海水は本当に海の魚に取って最良の水なのか」という思いに至らせたという。その後に改良を重ねた結果、「好適環境水」が誕生した。
「好適環境水」の利点は多岐にわたる。塩分濃度が低いため魚のストレスが軽減され、成長が大幅に加速する。タマカイに至っては海水の3倍のスピードで成長した。
さらに、完全閉鎖循環方式のうえ、好適環境水がアンモニアの発生量を極端に抑制するため水交換がほとんど不要で、工場などの余剰熱(廃熱)や水温が一定している地下空間などを利用すれば、消費する電力も大幅に抑制できるという。魚病薬も使用せず、赤潮や海水温上昇といった海洋環境の影響も受けない。
「水と電気さえあればどこでも養殖可能」という特性から、好適環境水は実用化が進んでいる。福島県浪江町ではベニザケの本格的な養殖事業化に向けて拡張計画が進行中だ。
宮崎県都農町では、自治体、漁協と連携し、タマカイをふるさと納税の返礼品として展開する地域創生モデルが形成された(共同研究は昨年度終了)。岡山県和気町ではレストランで「おかやま理大うなぎ」のひつまぶしが提供されるなど、地域経済への貢献も大きい。
2023年には全国のくら寿司で「おかやま理大うなぎ」が販売された。高級魚マツカワの握りも、くら寿司大阪・関西万博店で「岡山理大まつかわがれい」として商品化された。
加えて、味も保障されている。山本氏は2013年にトラフグを初めて市場に出した時のことを振り返り、「食べた人から『うまい、うまい』と言われたのが一番うれしかったし、自信にもつながった」と語った。







