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インド映画はなぜ踊るのか?...『ムトゥ 踊るマハラジャ』の功罪

2025年10月17日(金)11時35分
高倉嘉男(豊橋中央高等学校校長・東京外国語大学非常勤講師)

『ムトゥ』以降に日本で公開されたいくつかのインド映画の副題(「踊る夕陽のビッグボス」や「ラブゲット大作戦」など)を見てみても、インド映画を色物として売り出してやろうという配給会社の魂胆がひしひしと感じられる。

それはともかく、映画に踊りが入るのは異質であるという固定観念を持っている人の脳裏には、「インド映画にはなぜ踊りが入っているのか?」という疑問も当然思い浮かぶことになる。


 

インドに長く住んだ経験を持ち、本場で「インド映画が日常」という生活にドップリ漬かった身としては、映画に踊りが入る方が「標準」なので、そのような問い掛けをされたときには、多少の面倒臭さを感じながらも、インド映画伝道師としての使命感に突き動かされながら、そのもっともらしい理由を並べることになる。

それは、日本人がインド人から「あなたたちはなぜ用を足した後、紙でお尻を拭くのですか? 不潔だし、資源の無駄遣いではありませんか?」と聞かれたときの感情に似ている。

また、少なくとも日本の映画ファンの間では、踊りのないインド映画も存在することが知れ渡ってきている。そういう映画が日本で公開される際、「踊りのないインド映画」という点がことさらに強調される傾向にある。

あたかも「このインド映画には他とは違って踊りはありません、ふざけていませんから、観る価値がありますよ」と宣伝しているかのようだ。これも、踊りの入った映画に対する偏見の裏返しなのではないかと感じる。

奇妙なのは、米国でもダンス入りの、いわゆるミュージカル映画が時々作られるのだが、それらが日本で紹介される際、踊りが入っていることが決して否定的には扱われないことだ。

あたかもハリウッド映画の踊りは善で、インド映画の踊りは悪であるかのごとくだ。日本の映画業界に見られるこのダブルスタンダードには、日本のインド映画ファンからしばしば憤りの声が上がる。

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