最新記事
小澤征爾

独占インタビュー:師弟関係にあった佐渡裕が語る、「小澤先生が教えてくれたこと」

A Tribute to My Maestro

2024年3月2日(土)11時48分
佐渡 裕(指揮者)

2007年、佐渡がベルリン・ドイツ交響楽団を客演指揮した際にベルリン・フィルハーモニーの楽屋に現れた小澤

<小学生の頃に見た『オーケストラがやって来た』から、米タングルウッド音楽祭で受けた指導、年齢と共に成熟していった指揮......佐渡だけが知る師匠・小澤征爾とは。好評発売中の本誌「世界が愛した小澤征爾」特集より>

今年2月、小澤征爾先生の訃報に接してから初めて臨む演奏会は、私が音楽監督を務めるウィーンのトーンキュンストラー管弦楽団による、ブルックナー作曲の「交響曲第7番」でした。

この曲は、ブルックナーが大変に尊敬していたワーグナーの体調が悪いことを知って書き進められました。作曲中にワーグナーが亡くなると、その悲しみのなかで加筆がなされた交響曲です。

小澤先生の死後初めて指揮するのが、よりによって葬送の曲だなんて。もちろん曲目は事前に決まっていたので偶然ですが、小澤先生への思いが込み上げてきました。

第1楽章の幸福感に満ちあふれた冒頭部から、第2楽章の葬送音楽を経て、第3楽章で宇宙的な音楽の間に挟まれるトリオは、子守歌のように美しい音楽です。安らかにお眠りくださいという音楽のように聞こえてくる。やがて第4楽章の最後まで大きな一つの虹のようにつながっていく──。小澤先生も縁の深いウィーン楽友協会ホールでこの曲を指揮しながら、私は先生との出会いの日々を少しずつ思い出していました。240302oz_mtc02.jpg

私が小学5年生の秋、テレビ番組『オーケストラがやって来た』の放送が開始されます。山本直純さんの司会で、小澤先生率いる新日本フィルが何度となく出演していました。毎週日曜日の午後、とても楽しみにこの番組を見ていました。クラシックに夢中だった小学生にとって、小澤先生は憧れの的だったのです。

初めて小澤先生が指揮する生演奏を聴いたのは、1975年6月10日。サンフランシスコ交響楽団の京都会館での来日公演です。私は中学2年生でした。指揮者は通常、舞台の下手(舞台に向かって左側)から出てくるものですが、このとき長髪の小澤先生は右側から小走りで出てきて指揮台に立ちました。格好はえんび服ではなく、森英恵さんデザインの白いジャケットにタートルネックでネックレス姿。ここで度肝を抜かれました。ああ、格好いい! と。

アイブスの「夕暮れのセントラルパーク」、モーツァルトの「ピアノ協奏曲第27番」に続いて、最後に演奏されたのがドボルザークの「交響曲第9番」(新世界より)でした。「家路」で知られる第2楽章の演奏は今でも耳に残っています。テレビでしか見たことのない小澤先生を生で見られて、私は興奮していました。思わず、終演後に楽屋に立ち寄って、サインをもらっていました。

その後京都芸大に在学中には、小澤先生指揮のボストン交響楽団の関西公演を見に行きました。既に指揮者を志していたこの頃の自分にとって、先生はますます雲の上の存在でした。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルおおむね下落、米景気懸念とFRB

ビジネス

ステーブルコイン普及で自然利子率低下、政策金利に下

ビジネス

米国株式市場=ナスダック下落、与野党協議進展の報で

ビジネス

政策不確実性が最大の懸念、中銀独立やデータ欠如にも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 8
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中