最新記事
スポーツ

選手の「脳」より大事なものが? なぜアメフトは頭部の保護に「不十分」なヘルメットを使い続けるのか

The Helmet’s Real Aim

2024年2月23日(金)09時47分
ノア・コーハン(ワシントン大学〔セントルイス〕アメリカ文化研究所副所長)

もっとも、頭に何もかぶらなかった19世紀のアイビーリーグのチームに始まり、20世紀初めの革ヘルメットの時代まで、装飾やシンボルはヘルメットに必須ではなく外観は実用的だった。1939年にスポーツ用品メーカーのジョン・T・リデルが開発したプラスチック製の安全ヘルメットも、当初は実用第一だった。

飛躍的な進歩を遂げたのは60年代だ。NFLコミッショナーのピート・ロゼルはテレビが莫大な利益を生む時代を見据え、NFLがアメリカ文化の巨人になる基盤を築いた。62年にNFLが初めて全国放映の契約を結んだときは、大半のチームのヘルメットにロゴがなかった。

ロゼルは当時新しかったテレビカメラのズームアップに目を付け、ヘルメットにロゴを付けるようリーグの全14チームに求めた。間もなくさまざまにカラフルなヘルメットが毎週、テレビ画面に映し出されるようになった。大学や高校もすぐ後に続き、ヘルメットは安全装備をはるかに超えるものになった。

コレクターズアイテムとしてのヘルメット

鮮やかな色彩と洗練されたロゴで飾られた現代のヘルメットは、ニューヨーク市、ノースウェスタン大学、地元の小さな町......など、アメリカの無数のコミュニティーを生き生きと象徴している。

野球やバスケットボールのシンボルはボールをデザインしたものが多く、アイスホッケーではスティックやパックがよく使われるが、フットボールは圧倒的にヘルメットだ。試合前のショーの装飾では、その日の目玉となる対戦を示すヘルメットが並べられる。

当然ながら、商品としても非常に人気がある。選手が試合で使ったヘルメットも、ガチャガチャのカプセルに入った小さなヘルメットも、価値の高い収集品だ。

NFLや有力な大学チームは、「オルタネート(第2デザイン)」や「スローバック(復刻版)」のヘルメットをシーズン中に着用し、売り上げに貢献している。全米の家庭の書斎やリビングには、間違いなくロッカールームよりはるかに多くのヘルメットが飾られている。

ファンにとってヘルメットは、試合と自分のアイデンティティーの物語とをつなぐ欠かせないピースだ。愛する人と観戦した試合を思い出し、チームの優勝が自然災害の惨状を癒やしてくれると期待するなど、アメリカ人が消費して、個人に属するものにしたがるスポーツの物語。ヘルメットとそのロゴは、そうした物語を彩るイラストだ。

ここにフットボールのヘルメットを安全性の面から語る科学的議論の欠陥がある。選手の脳を守れなくても、人気と利益を生み出すブランディングの中核である限り、ヘルメットが何かに取って代わられることも、根本的に変わることもないだろう。選手の頭部を守ることは重要な目的ではあるが、実際は昔から第一の目的ではなかったのだ。

©2024 The Slate Group

ニューズウィーク日本版 トランプの帝国
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月10号(2月3日発売)は「トランプの帝国」特集。南北アメリカの完全支配を狙う新戦略は中国の覇権を許し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米・イランが核協議、交渉継続で合意 アラグチ外相「

ワールド

EU、対ロシア制裁第20弾を提案 石油輸出向け海運

ワールド

伊首相、バンス氏と会談 ミラノでは五輪開幕控え反I

ビジネス

ECBの2大リスク、経済失速とインフレ下振れ定着=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 5
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    鉱物資源の安定供給を守るために必要なことは「中国…
  • 8
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 9
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 10
    「エプスタインは悪そのもの」「悪夢を見たほど」──…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 8
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 9
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中