最新記事

BOOKS

オタクの聖書『指輪物語』にテック業界の大物や極右政治家が魅せられる...その理由とは?

Right-Wing Rings of Power

2023年2月22日(水)13時52分
ジェレミー・リンデンフェルド

230228p54_YBM_02.jpg

軍事テック企業アンドゥリルは国境の監視塔を建設(イラストはイメージ) JEREMY LINDENFELD

アンドゥリルはトランプ政権下でメキシコとの国境地帯に監視塔の建設を開始。国境を越えてくる不法入国者を物体認識技術で検知するバーチャルの「国境の壁」だ。こうしたプロジェクトの結果、監視の緩い難所からの越境を試みて命を落とす人が増えていると、コンピューター科学者や人権擁護団体は指摘する。

米関税・国境取締局(CBP)は監視塔について片時も眠らずまばたきもしない相棒と表現する。「指輪」ファンなら、闇の軍勢を破る剣ではなく、暗黒の塔から闇の王国を監視するサウロンの炎の目を思い浮かべるかもしれない。

物語の圧倒的世界に便乗

トールキン崇拝はテック業界の起業家たちの間では珍しくないとオルカセキュリティのエリスは言う。「トールキンを読んで育った経験はオタク同士の数少ない共通点だったから、言及しやすかった」

トールキンに言及すればトールキンの物語の圧倒的な世界に便乗することもできる。ティールとラッキーが中つ国にまつわる用語を使うのは気まぐれな文学ごっこではない。トールキンの世界にリバタリアン(自由意思論者)の哲学への賛同を感じているからだ。

南カリフォルニア大学国際関係学部教授で、トールキンを通して現実世界の地政学を分析した著書があるパトリック・ジェームズは、ほぼ全てのイデオロギー集団が『指輪物語』に何かしら自分たちの理論のよりどころを見つけることができる、と指摘する。

なかでも保守的なリバタリアンは、『指輪物語』のどこにそれほど魅力を感じるのだろうか。ジェームズによると、物語の中で「政府は自由の民(エルフ、一部の人間、ドワーフなど)に何をすべきかと指示しない」。

中つ国に危機が訪れると、善良な種族は明確な命令がなくても資源を共有する。公共投資の大半は防衛費に充てられるため、外国の大軍が攻めてきても、戦う意志のある戦闘員が手に取る剣と盾は十分にある。カリスマ指導者は英雄的な行為のおかげで頂点に上り詰め、計り知れない困難を乗り越えて運命を全うする。

ただし、トールキンは1943年に息子に宛てた手紙で、自分の政治的な意見は「ますますアナーキー(無政府論)に」傾いているが、あくまでも「支配の廃止であって、爆弾を持ったひげ面の男たちではない」と強調している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国務省、中東邦人退避のチャーター便手配 当初対応

ワールド

米国はイランでの戦いを始めたばかり=ヘグセス国防長

ワールド

EU外相、イランが「無差別」攻撃で中東紛争を激化と

ビジネス

米国株式市場=反落、ダウ784ドル安 中東緊迫で原
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影された、パイロットの「まさかの姿」にSNS爆笑
  • 3
    「ハリポタ俳優で終わりたくない」...ハリー・メリングが新作『ピリオン』で見せた「別人級」の変身
  • 4
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 5
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 6
    対イラン攻撃に巻き込まれ、湾岸諸国が存立危機
  • 7
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「旅客数が多い空港」ランキン…
  • 9
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 10
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中