最新記事
米大統領選

開放か無差別関税か── アメリカの通商政策は大統領次第

WHO WOULD BENEFIT TRADE MORE

2024年9月10日(火)12時22分
魏尚進(ウエイ・シャンチン、コロンビア大学経営大学院教授、元アジア開発銀行チーフエコノミスト)
オークランド港で出港を待つ貨物

米貿易赤字は縮小しないまま(オークランド港で出港を待つ貨物) JUSTIN SULLIVAN/GETTY IMAGES

世界経済は今、不確実な大問題を抱えている。アメリカの次期大統領が誰になるかだ。

共和党のトランプ前大統領が返り咲けば、何をやるかは予想がつく。中国からの輸入品に対する関税を60%に引き上げ、その他の輸入品には一律10%の関税をかける。


中国が含まれるサプライチェーンに依存する国々も、そこに巻き込まれる。韓国や日本から中国に各種部品を輸出し、それが中国製の各種部品と合体され、最終製品へと組み立てられてアメリカなどへ輸出されている。そのため中国の対米輸出が減れば、韓国や日本の輸出も減る。

問題を回避するためサプライチェーンをインドやベトナムなどを経由するよう変更すれば、いくらか影響を相殺できるかもしれない。しかし、この方法ではコストが高くつくし、解決策として不十分になりそうだ。

「トランプ貿易ショック」の影響は、ここで終わらないだろう。関税のせいで中国の成長が阻害されれば、中国の輸入需要は落ち込む。日本、韓国、東南アジア諸国など中国を主要な貿易相手国とする国々に、またしても打撃が及ぶ恐れがある。

トランプが課す関税はアメリカに対し、ほかにも目立たないが望ましくない影響を2つ与える。第1に輸出の足を引っ張る。トランプの政策はマクロ経済学的にはアメリカの輸入だけでなく輸出も減少させる結果を生むため、貿易相手国としてのアメリカの相対的重要性は低下するだろう。

第2にトランプが課す関税は、米主導で構築された世界経済秩序を損なう。トランプの政策は、WTO(世界貿易機関)の下で負う法的義務に違反する。だがアメリカはWTOの紛争処理機能を弱体化させてきたから、WTOはトランプの保護主義を抑制することもできそうにない。

一方、民主党候補のハリス副大統領が掲げる通商政策の輪郭はそれほど明確でない。バイデン政権の姿勢を継承するならトランプの通商政策ほど常軌を逸したものにはならないだろうが、バイデンから受け継ぐ経済政策全体の中では「負の遺産」になるだろう。トランプの関税の影響ほど急速ではなくても、貿易国としてのアメリカの相対的な衰退を促すことになる。

だが、別の可能性もある。ハリスは民主党のクリントン政権とオバマ政権に倣う形で、再び世界貿易の主導権を握ろうとするかもしれない。包括的かつ先進的TPP協定(CPTPP)に復帰する可能性もある。CPTPPは、環太平洋諸国の貿易協定TPPから発展したものだ。オバマ肝煎りのTPPは、2017年にトランプが大統領に就任してすぐに離脱を決断した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国の尹前大統領に懲役5年の有罪判決 公務執行妨害

ビジネス

午後3時のドルは158円前半、介入警戒で不安定な動

ワールド

ベトナム、26年は外国からの融資55億ドル目標 イ

ビジネス

イタリアは人口危機と頭脳流出に直面、経済の脅威に=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑について野次られ「中指を立てる」!
  • 2
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 3
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 4
    イランの体制転換は秒読み? イラン国民が「打倒ハ…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    日中関係悪化は日本の経済、企業にどれほどの影響を…
  • 9
    年始早々軍事介入を行ったトランプ...強硬な外交で支…
  • 10
    イランの大規模デモ弾圧を可能にした中国の監視技術─…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 8
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 9
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 10
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中