最新記事

金融

コロナウイルス・ショックにも長引かない「売り相場」 コンピュータ取引のアルゴリズムが寄与?

2020年2月4日(火)13時09分

アルゴリズムを駆使した超高速のコンピューター取引が、新型コロナウイルスなど世界的に衝撃的なイベントによる市場の動揺を長引かせない役割を果たしている可能性がある。写真は1月28日、ニューヨーク証券取引所で撮影(2020年 ロイター/Bryan R Smith)

アルゴリズムを駆使した超高速のコンピューター取引は、為替や株式市場で「フラッシュ・クラッシュ(瞬間的な相場の急変動)」を引き起こす元凶と非難されることが多い。

だが実は、新型コロナウイルスなど世界的に衝撃的なイベントによる市場の動揺を、長引かせない役割も果たしているのかもしれない。

株式・債券・為替・商品いずれの市場も売り局面が短くなる傾向にある。例えば米軍がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害し、イランが報復のミサイル攻撃に動いたケースは、いずれも市場に破局をもたらしてもおかしくない材料だった。

しかし、実際には年初だけ、暴力的だが予想外に短期間な反応を市場が見せたのみだった。

どちらの場合も円が反射的に買われ、株価は数時間下落したもののその後に最高値を更新。足元で新型ウイルスによる肺炎が経済成長を阻害する恐れが出てきているが、それでも株価は世界的に最高値圏からそう遠くない位置につけている。

新型肺炎のニュース、アルゴリズムはどう解釈

こうした市場の底堅さが、多くの要因に支えられているのは確かだ。主要中央銀行が金融緩和に動いていることや、世界的な貯蓄の増加が過去10年で株価を25兆ドルも押し上げたことは言うまでもない。

アルゴリズム取引の増加も、その要因の1つとして関連づけられそうだ。グリニッチ・アソシエーツの調査によると、外国為替市場におけるアルゴリズム取引のシェアは過去6年間で2倍以上に膨らみ、27%に達している。

アルゴリズム取引は、商いが薄い休日などに相場の不安定要因になりうる。

その反面、昼夜を問わず超高速かつ低コスト、正確無比に売買ができる利点も持つ。コンピューターが実行するため、人間に付きものの恐怖や欲望による衝動的な行動とも無縁だ。

アルゴリズム革命の先駆者的な金融機関の1つ、JPモルガンで電子商取引セールスを統括するスコット・ワッカー氏は、アルゴリズム取引は感情に流されないと指摘。「結果的に為替市場では、大きな地政学的ニュースにすら短期間しか反応せず、比較的速く安定を取り戻せる」と話す。

つまり、異例のイベントが発生した際、アルゴリズムはニュースを素早く精査して反応できるだけでなく、そうしたニュースが資産価格にどれだけ影響するかを推計することが可能になっている。最も高度なアルゴリズムなら、経験から学ぶよう「訓練」を受けて、次のショックに備えることができる。

アルゴリズムに詳しいある為替トレーダーは、株式市場でコンピューターが新型コロナウイルスのニュースをどう解釈するかについて、たとえば「500人の新規感染者10人の死亡」なら通常は買い、「3000人が新たに感染200人が死亡」なら売りと説明する。

大きなニュースの見出しが流れれば、コンピューターに主導された市場がすかさず反応するのがポイントだと、このトレーダーは話す。

半面、ボラティリティ上昇の引き金になってきたこれまでの教訓を踏まえ、コンピューターには市場の値動きが一定限度を超えれば取引をやめられる「ばね止め」の機能もあるという。

Saikat Chatterjee

[ロンドン ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200211issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月11日号(2月4日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集。歌人・タレント/そば職人/DJ/デザイナー/鉄道マニア......。日本のカルチャーに惚れ込んだ韓国人たちの知られざる物語から、日本と韓国を見つめ直す。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中