最新記事

リーダーシップ

ビッグデータ時代に「直感」はこう使え

2015年11月9日(月)15時51分
ベン・ウォーカー ※Dialogue Review Sep/Nov 2015より転載

dialogue151109-b.jpg

 土木系や一部の製造業などでは、財務関連のITシステムがシンプルすぎたり、古すぎることがある。また、どの業界でも、「データのラッダイト運動」(編集部注:ラッダイト運動は、1810年代、産業革命期のイギリスで起きた機械破壊運動)とでも呼ぶべき情報処理の機械化や自動化に反対する動きがあるようだ。調査結果によれば、高度に専門化されたシステムや、データ処理ソフトが世の中にはあふれているというのに、CFOの70%がいまだにエクセルのスプレッドシートしか使っていない。先述のフォックス氏は、どんな業界であれ、幅広い業務の中から企業データを収集・管理し、分析する基幹業務ソフトの導入を検討することを提案している。

 生のデータを手に入れることはさほど難しくはない。ただ、信頼できるデータの分析結果を手に入れるのは簡単ではない。情報の信頼できる分析結果が得られない時にリーダーは、共同で物事を進めようとしがちだ。判断を下すときに複数の人の意見を求め、リスクを分散させるためだ。しかし、このような"共同作業"が決断の質を向上させたという調査結果はほとんど見当たらない。

「エコノミスト」誌の調査部門であるエコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)の2014年発表の調査報告によると、回答者の4分の3近くが決断を下す際に自分の「直感を信じる」と答えている。その中には、最終的な判断を下す前に必ずデータを分析すると答えた者も含まれている。

 最終的な判断をデータの分析結果に拠っているのに、「直感を信じる」と回答したことに矛盾を感じるかもしれない。だが、この矛盾しているように見える回答からは、ある重要な知見を得ることができる。「データと直感が相反した場合に、リーダーはデータよりも直感を優先する」というものだ。

 健康・美容事業の世界的大手、アライアンス・ブーツ社の調査部門責任者ダン・ハンブル氏は、「データと直感が矛盾したときには、そのままデータを信じることはせず、もう一度分析をやり直します」と、EIUの質問に答えている。直感とデータがぶつかったとすれば、データの収集や分析の仕方が間違っていたのかもしれないと思うようにしているそうだ。

「直感はデータとその分析結果の検証に使える便利なツールでもあります」とハンブル氏はつけ加える。データそのものが根拠として使うには弱い場合、集め方がでたらめだった場合、分析の仕方が良くなかった場合などに、直感は警鐘を鳴らすことができる。「データが正しいと確信できて、それが適切に、正確に分析されているとわかったならば、(直感を退けて)データに基づいて行動するべきです」とハンブル氏は語る。

 クランフィールド大学経営大学院のモリアン氏は、人の直感には限界があることを強調する。「直感だけに頼るのは、最初のうちはうまくいくかもしれません。でも、いくら鋭い直感をもっていたとしても、そのやり方を長く続けることは難しいでしょう。とくに、今よりもっと上をめざしたいという野望があるのならば、(データの力を信じ)直感"だけ"に頼るのはやめるべきです」


編集・企画:情報工場 © 情報工場

johokojologo150.jpg





※当記事は「Dialogue Review Sep/Nov 2015」からの転載記事です

dialoguelogo200.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:中国の再利用型無人宇宙船、軍事転用に警戒

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 8
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 9
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中