最新記事

リーダーシップ

ビッグデータ時代に「直感」はこう使え

決断を下す際にあいまいな直感に頼るのは危険だが、有能なリーダーは直感を「警鐘」に活用している

2015年11月9日(月)15時51分
ベン・ウォーカー ※Dialogue Review Sep/Nov 2015より転載

直感がものを言う? 直感に頼りがちなCFOよりも根拠に基づいて判断を下すCFOの方が稼ぎがいいという調査結果もある Lammeyer- iStockphoto.com

 骨董品のディーラーは品物を一目見ただけで偽物かどうかを見抜けるという話を聞いたことがあるだろう。マルコム・グラッドウェル氏の著書『第1感――「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』(邦訳・光文社)には、医者が病院で順番待ちをしている患者の中から命にかかわる症状の者を一瞬で見つけだせるというエピソードが紹介されている。グラッドウェル氏によれば、人は経験を積むことで、じっくりと考えなくても即座に重要な判断ができるようになるという。「直感」は、しばしばデータよりも信頼できるということだ。

 英国の市場調査会社レッドシフト・リサーチが国内企業の最高財務責任者(CFO)たちを対象に調査を行ったところ、約半数が決断の際に「直感」に頼っていることがわかった。ただし、彼らが直感を使うのは、状況次第だという。実証可能な根拠に乏しかったり、データがあってもそれを適切に分析できなければ、直感に頼るほかない。そして、この調査からは、「直感に頼りがちなCFOよりも、実証可能な根拠に基づいて判断を下すCFOの方が稼ぎがいい」という事実も浮かび上がった。これは、データを信じ、それをもとに物事を検討する人の方が、直感を優先する人よりも質の良い判断をすることが多いことを示している。

 レッドシフトの調査結果とグラッドウェル氏の理論は、実は矛盾していない。グラッドウェル氏は、直感に基づいて行動するベテランが、過去の膨大な経験のストックの中から必要なデータを瞬時に脳から呼び出していることを指摘している。レッドシフトに調査を依頼したテキサスのソフトウェア会社エピコールの商品マーケティング担当副社長、マルコム・フォックス氏も次のように説明する。「有能なCFOは、データを検討するためのツールとして直感を活用しています。情報がまったくないので仕方なく直感で意思決定しているわけではありません」

 クランフィールド大学経営大学院のデイヴィッド・モリアン氏は、成長企業のオーナー経営者のパフォーマンス研究における世界的権威だ。同氏は、トゥールーズ大学の心理学者らとともに、オーナー経営者の自らの判断に対する自信の度合いと企業の業績との関係を検証した。すると、自分の直感に自信があるオーナー経営者は、業績があまり良くないという傾向が見られた。それに対して、自らの直感をあまり信用していないオーナー経営者の多くは事業を成功に導いていた。モリアン氏は言う。「自分の判断にあまり自信をもてないオーナー経営者は、データに当たったり、他者からのアドバイスを受け入れることが多いようです。データを検討するなどして、確かな判断の根拠が得られることで、思い切って一歩前に踏み出すことができるのです」

 オーナー経営者が安全地帯にいる、すなわち、既知の商圏で、定評のある企業や、付き合いの長い得意客を相手に取引をするにとどまるのであれば、自身の「直感」は役に立つかもしれない。だが新しい領域ではそうはいかない。「事業が成長している時には、多くの場合、オーナー経営者たちは自らの知識や経験の範疇を超える新しい領域へと踏みこんでいるものです」とモリアン氏は話す。「直感を得た時に、それを完全に無視しろとは言いません。データや他者からの助言でその直感を裏づけるべきです。新しい領域に踏みこむのであれば、なおさらです」

 日々のニュースの見出しに「ビッグデータ」という文字が躍っており、いとも簡単にデータが手に入る時代になったと勘違いしている人も多いのではないだろうか。しかし、真に価値のあるデータをきちんと見つけ出すのは、おそらく皆が想像するよりもずっと難しい。「データの時代」と言われるが、ほとんどのCFOがそれを実感できていないのだ。レッドシフトの調査では、金融関連情報を「十分に把握できている」と答えたCFOは、全体の半数に満たなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中