最新記事

金融危機

アメリカを狂わせた馬鹿マネーの正体

2009年9月17日(木)17時36分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

「チープマネー」から「ダムマネー」へ

 もう一つ、重要な点がある。

 現在進められている刑事捜査の結果、数々の犯罪行為が明るみに出ることは間違いない。しかし、この金融危機で最大のスキャンダルは、詐欺師やイカサマ師の仕業ではない。本当のスキャンダルは、法律と規制の範囲内で行動した人々によって圧倒的大多数の損失が生み出されたことだ。
 
 1.2兆ドルのサブプライムローン市場。62兆ドルの野放しで不透明なCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)市場。経営トップがよく理解できていないのに、上場企業である投資銀行が大量に抱え込んだCDO(債務担保証券)やRMBS(住宅ローン担保証券)。危なっかしいサブプライムローン担保証券を、トリプルA評価の信用度抜群の金融商品に変身させた信用格付けの錬金術。未公開株投資ファンドによる500億ドルの大型企業買収。ヘッジファンドの株式上場――。

 すべて、その時点では素晴らしいアイデアに思えた。こうした新しいカラクリを考え出した人々は、天才だ、ビジネスの革命児だともてはやされた。端的に言えば、この人たちは賢い「スマートマネー(Smart Money)」の時代の象徴だと思われていた。

 私に言わせれば、2000年代は、低利で多額の金を借りやすい「チープマネー(Cheap Money)」の時代が、「馬鹿(ダム)マネー(Dumb Money)」の時代へ、そしてそれに輪をかけて冷静な判断のできない「もっと馬鹿(ダマー)マネー(Dumber Money)」の時代へと変わっていった10年間だった。

 借金というアルコールで狂乱状態になったパーティーが盛り上がるうちに、ダムマネー的な愚かな倫理基準とビジネスモデル、ものの考え方が、アメリカの経済、さらには政治や文化の隅々にまで染み渡っていった。

 つまるところ、私たち全員が大がかりな妄想に取りつかれて、いくつかの致命的な誤解をしていたというのが真相だ。

 グリーンスパンはこの危機を「100年に1度の信用の津波」と呼んだ。ポールソンは100年に「1度か2度」の事態だといった。1度か2度? 1度と2度では大違いだ。なにしろ今後の1回で消し飛んだ金は、アメリカだけで数兆ドルに達する。

 いま私たちにできるのは、真実を理解し、2度と同じ愚行を繰り返さないためにどうすればいいのかを考えることだ。

(9月28日発売のダニエル・グロス著『ニューズウィーク日本版ペーパーバックス 馬鹿(ダム)マネー 金融危機の正体』より抜粋)

web_biz040909-book.jpg『ニューズウィーク日本版ペーパーバックス
馬鹿(ダム)マネー 金融危機の正体』

ダニエル・グロス 著
池村千秋 訳
定価1000円
四六版並製/216ページ
阪急コミュニケーションズ刊(9月28日刊)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

東京ガス、25年3月期は減益予想 純利益は半減に 

ワールド

「全インドネシア人のため闘う」、プラボウォ次期大統

ビジネス

中国市場、顧客需要などに対応できなければ地位維持は

ビジネス

IMF借款、上乗せ金利が中低所得国に重圧 債務危機
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中