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GM「救世主」サターンの挫折

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世界最大のGMも陥落へ
米自動車20年間の勘違い

2009.04.15

ニューストピックス

GM「救世主」サターンの挫折

Saturn Was Supposed to Save GM

2009年4月15日(水)10時00分
ポール・イングラシア(自動車業界ジャーナリスト)

日本勢打倒」で労使が結束

 80年代前半、GMはまだ世界の自動車産業に君臨していたが、景気後退のあおりを食って60年ぶりに赤字に転落。70~85年、輸入車のシェアは13%から24%超と2倍近くに増大した。日本メーカーがアメリカに建設したばかりの工場では、GMの工場の半分の労働力でトップクラスの品質の車が生産されていた。

 GMは日本の進出に対抗するため、プロジェクトをスタートさせた。プロジェクトの名称「サターン」は、米ソの宇宙開発競争時代にアポロ計画でアメリカ人宇宙飛行士を月に運んだロケットから取った。GMの従来の企業モデルを一掃し、組立ラインからショールームまで斬新な手法を取り入れて新規まき直しを図ろうと、スミスは心に決めた。

 スミスの構想はロボットを増やして労働者を減らす結果につながるのではないかと、全米自動車労組(UAW)は懸念した。ところが、スミスは意外な人物と手を組んだ。UAWの対GM交渉責任者、ドナルド・エフリンだ。エフリンはフォード幹部と共に日本を訪れ、日本式経営をその目で見てきていた。

 85年7月、GMはエフリンと合意に達し、覚書を交わした。それまでGMは労組との取り決めで、工場によっては作業を200種にまで細分し、ある作業に当たる労働者には他の作業をさせないという約束になっていた。

 だがサターンは、こうした煩わしいルールに縛られずに済むことになった。「すべての人が自分たちに関わる決定に参加したいと思っており......自分たちの努力の成果を皆で分かち合いたいと思っている」と、覚書は宣言していた。

 日本勢の上をゆく労使協調を目指した点で、この覚書は革命的とも言えるものだった。労働者の賃金は、UAWが設定したレベルの80%を固定給とし、20%は能力給とされた。企業年金も確定拠出型に変更。その見返りとして、経営側は労働者に年間の労働時間の最低5%を技術訓練に充て、例外規定付きながら一時解雇は総人員の20%以下とすることを約束した。

 工場の建設が進む間、労働者と経営陣は近くのフィールドアスレチックで、ロープで互いの体を結わえ付けて高い壁を登るなど、チーム意識を育てるためのトレーニングに励んだ。

 労働者の1人、アン・フォックスはそれまでアラバマ州のGMの部品工場で、力の要る単調な作業を行っていた。それに比べ、サターンの新工場は「清潔で新しく、天国みたいだった」と言う。ロボットの導入などで作業が楽になったばかりか、労働者が人事にまで発言権を持つようになった。経営に参画できたことがとても誇らしかったと、フォックスは話す。

 GMの内部では、サターンに対するやっかみも生まれた。シボレー、ポンティアック、オールズモビル、ビュイックなど既存ブランドにとって、サターンは先生にひいきされる新入生のようなもの。サターン部門の技術者が社内の他部門から人材を集めようとすると、「おまえのところはエキスパートぞろいなんだろ。なんでうちの技術屋を引き抜く?」と言われたという。

 緊張関係は上層部にもあった。87年、サターンがまだ開発段階にあった時点で、GMは宿敵フォードの後塵を拝すようになっていた。エルマー・ジョンソン執行副社長は取締役会で、既存部門の強化が必要であり、サターン開発計画を中止すべきだと訴えた。サターンに社運を賭けると大々的に宣言していたスミスとしては、この戦いに負けるわけにはいかない。

 数カ月後、一時は次期会長候補の呼び声高かったジョンソンが社を去ることになった。89年夏にエフリンもUAWのポストを引退。1年後にスミスも会長職を退いた。

 だが、社を去る数週間前に、スミスは完成した第1号のサターンを自ら運転して組立ラインから発進させることができた。本来なら、報道陣を招いて派手なセレモニーが行われるところだが、あいにくGMの業績は低迷中。しかも、マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー『ロジャー&ミー』で散々コケにされて、スミスのイメージはがた落ちになっていた。

 サターンの広報担当は、スミスが表に出ることで輝かしい新ブランドに傷がつくのを恐れ、ごく内輪のセレモニーにとどめた。

 サターンの最初のモデルは、90年秋に鳴り物入りで市場に投入された。調査機関・自動車研究センターのデービッド・コールは、サターンの登場に日本勢は「血の気を失う」と予言。自動車メディアは、日本車を撃破するサターンの威力を派手に書き立てた。

 実際、日本勢にも警戒心はあった。サターン発売を契機に、GMは「数々の痛手から立ち直り、非常に成功した企業となるかもしれないと思った」と、トヨタの米生産会社の元幹部ゲーリー・コンビスは言う。

 だが、サターンを購入して分解してみたホンダの技術陣は拍子抜けした。ダッシュボードにはプラスチックのパネルが貼ってあり、安っぽい感じだった。耳障りなエンジン音は、モーターの取り付けがしっかりしていないためと判明。軽い衝撃ではへこまないとうたわれていた合成樹脂製のドアは、きちんと閉まらなかった。日本人技術者たちは「信じられない」を連発するばかりだった。

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