コラム

日経平均「ほぼ史上最高」を喜べない2つの理由

2024年02月14日(水)14時40分

現在、植田総裁の率いる日本銀行は、「異次元の金融緩和」の出口を模索しています。行き過ぎた円安はエネルギー高、食糧の高騰、資材高などで国民生活を圧迫しており、この円安トレンドを穏やかに着地させることは大きな課題です。

ところが、世界各国がコロナ禍以降に「思い切りカネを使って国家財政を悪化」させているなかでは、日本の財政は各国比較をすれば「まだまし」という印象が市場では一般的になっています。ということは、拙速に「金融緩和から引き締めへ」という転換をすると、期待している範囲を越えた円高になってしまう危険があります。

 
 

実は、多くの外国人投資家は「この後に来るであろう一時的円高」に期待して、円安のうちに日本株を仕込んでいるという傾向があると考えられます。そうなると、仮にこの後、不用意に円高に振れた場合には、外国の投資家が一斉に利益を確定するための売りに走る危険もあるわけです。そうなると、円高で多国籍企業や商社の見かけの円建て業績が悪化するだけでなく、株が売られて下がるということもダブルで発生します。

では、そのような円高による株安を恐れて、いつまでも「異次元緩和の出口」を先延ばしにしていると、最悪の場合には、どんどん国内の産業や人材が流出してしまいます。また、国内では物価高により生活水準のさらなる切り下げを余儀なくされ、最終的に日本経済は立ち枯れてしまいます。海外と繋がっている部分だけが儲かって、純粋国内産業はどんどん衰退するという筋の悪い格差社会にもなりかねません。

植田日銀は、恐らく春闘の賃上げを実現した後に「異次元緩和の出口」を模索することになると思います。その判断は、過度の円高も怖い一方で、過度の円安を放置することもできない、非常に難しい判断になると思います。ということは、今回の株高というのは、極めて期間限定、一過性のトレンドなのかもしれません。いずれにしても、単純に喜べる話ではないと考えられます。

ニューズウィーク日本版 トランプvsイラン
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU、米関税期限前の合意ほぼ不可能に 現状維持を目

ワールド

ハマス、米停戦案に「前向き」回答 直ちに協議の用意

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産加速で合意の公算 5

ワールド

IAEA、イランから全査察官撤退 核施設のアクセス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    1000万人以上が医療保険を失う...トランプの「大きく…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story