コラム

実はアメリカとそっくりな「森友学園」問題の背景

2017年03月28日(火)18時20分

ところが、今回の「森友学園」というのはこれとは違います。平田国学に国家神道を重ねるという日本の伝統の平均値からは大きく右にシフトした思想的背景を持ち、多様性を極端に否定する姿勢は、教育機関の方向性としては非常に特異です。

このことは、公教育の現場では反対に「戦後の価値観=国のかたち」に忠実な多様性の追求が行われている、その裏返しと言うことができます。そして公教育の現場で多様性が確保され、それに反発する保護者のニーズに応えて「保守教育を行う自由」が私学として追求されていく、こうした動きは、実はここ20年のアメリカで起きていることとよく相似しています。

また、そのように「保守教育を行う自由」の主張が富裕層に支持母体を持っていること、それにもかかわらず全額を自己資金で調達するのではなく、可能な限り国や地方自治体の「公的な資金」からの援助を引き出そうという姿勢を持っているというのも、アメリカとソックリです。

いわゆるチャーター・スクールとか、教育バウチャーというのがそれで、「子供を性教育から隔離する自由」であるとか「進化論を教えず、他の種と比較して人類の優越を教えたい自由」といった「親の主張」を実現したい、だがそのような「自分たちが絶対的な真理と信ずること」の教育に「自分たちの納めた税金が使われない」のは納得がいかないので、公的資金からの支援を強く要求するという政治運動に他なりません。

【参考記事】「オバマが盗聴」というトランプのオルタナ・ファクトに振り回されるアメリカ政治

そして、こうした政治運動は、当然ですが多様性を重視する公教育とは厳しく対立することになります。今回、トランプ政権の教育長官に就任したベッツイ・デボスという女性は、こうした政治運動に巨額の資材を投じてきた人物で、まさにこうした「保守による公教育否定論」を象徴する存在です。

つまり森友のような問題は、ある意味ではアメリカ同様に公教育が多様性をきちんと確保できていることの反証であり、大きな流れとしては危険な兆候ではないと思います。

問題は、冒頭で触れたように官有物の払い下げ手続きにおける透明性の確保ということですが、これに加えて、例えば「本当に通用する英語教育」「問題解決型のコミュニケーション教育」「ICT(情報通信技術)の使いこなし」「到達度に合わせた個別指導」といった、21世紀にふさわしい教育改革の実効性という点で、「公教育」が遅れを取っているという問題があります。

森友学園には多くの問題がありますが、その批判ばかりに気を取られ、肝心の公教育における改革の実行が遅れるようなことがあってはならないと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ガザ最大の難民キャンプとラファへの攻

ビジネス

中国、超長期特別国債1兆元を発行へ 景気支援へ17

ワールド

ロシア新国防相に起用のベロウソフ氏、兵士のケア改善

ワールド

極右AfDの「潜在的過激派」分類は相当、独高裁が下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 7

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    あの伝説も、その語源も...事実疑わしき知識を得意げ…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story