コラム

2017年働き方改革のツボは「権限・スキル・情報」の集中

2016年12月27日(火)15時00分

 会議がダラダラと長時間化するという問題も、同じ理由です。会議に時間がかかるのは、意見が対立して「カンカンガクガク状態」になるとか、反対に「良いアイディアが出ないので沈黙がちになる」といった理由では「ない」場合が多いのではないでしょうか。

 そうではなくて、「権限だけあるがスキルも情報もない人間が、権威を確保するためにムダな自慢話や叱責などを行って時間を浪費する」「権限だけあるがスキルも情報もない人間が、分からないままに判断するのが怖いので執拗に詳細の報告を求める」というように、上席にいる人間の「せい」でダラダラと時間がかかっているケースが多いのだと思います。

 さらに問題なのは、保守的な企業の場合には、情報とスキルを握っている現場の発言権が弱く、最新のスキルと情報がない「過去に生きる」存在の幹部だけがやたらと喋っているというような会議があることです。これこそ、壮大な時間のムダと言えます。

 90年代までの日本企業は、このような長時間労働はしていませんでした。国際化や形式主義的なコンプライアンス重視が進んでいなかったとか、要員に余裕があったというような解説がされることが多いようです。ですが、実は時代の変化スピードがそんなに速くなかったので、現場と幹部の「スキルと情報の逆転現象」が、それほど深刻ではなかったために、何でも「話が早かった」ということが大きいのではないかと思います。

【参考記事】「3.9+5.1=9.0」が、どうして減点になるのか?

 つまり、「権限・スキル・情報」が集中するような仕組みで効率化を図り、さらにその上の「統制」というチェック機能を働かせるような組織でスピーディに仕事を進めるようにしなければ、「働き方」も「生産性」も改善していかないのではないかと思うのです。

 今は袋叩きになっていますが、電通の吉田秀雄氏の唱えた「鬼十則」というのは、私は嫌いではありませんでした。組織人だけでなく、フリーランスや政治家、芸術家にとっても、本当のプロ意識を持っている人間には役に立つ心構えだからです。

 中でも「周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。」という言葉は、仕事をする人間に取っては世界共通の心構えであるように思います。ですが、どんなに高い意識を持って「引きずり回そう」と思っても、テコでも動かない重量級の「権限だけはある高齢管理職」が「立ちはだかって」いるようでは、若い人々は摩耗し、疲弊するしかないわけです。

 問題は労働時間でも要員不足でもありません。組織のあり方を見直して、スキルと情報のあるところに権限を集中させること、それが改革のツボだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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