コラム

東京五輪の「おもてなし」、現行の公共交通では大混乱になる

2016年02月23日(火)17時30分

 しかし、実際にはこれは実現不可能です。まず、海外で売られているスマホが内蔵している非接触式の伝送システムは「NFC(近距離無線通信)」が主流です。iPhoneの「Apple Pay」などもそうですし、アンドロイド端末の多くもそうです。ですが、NFCという技術ですと、どうしても交信に数秒を要しますから、首都圏の改札のスピードには対応できません。しかも、改札をNFC対応にするには相当なコストがかかるのです。

 日本の現行のICカード改札というのは、「FeliCa」というテクノロジーを使っています。これなら速いのですが、残念ながら日本以外ではFeliCaを内蔵したスマホというのはありません。ということは、スマホを使ったシステムは、NFCもFeliCaも不可能ということになります。

 現実性があるのは、もっと単純なアプローチです。来日した外国人に「FeliCa」のICカードを全員に配布するのです。できれば、乗り放題パスもFeliCaに内蔵してしまうべきです。

【参考記事】燃料電池車はテスラに勝てるか

 1つのアイディアとして、その「訪日外国人向けのFeliCa内蔵カード」を、NFCでスマホと交信可能にしてスマホに入っているクレカ情報で課金するという考え方です。カードにちょっとカネがかかりますが、自動改札を改造することを考えれば安いものだと思います。また、日本人向けにも「FeliCaと Apple Pay を連動させる」という機能は活用の余地があると思います。乗換案内と料金試算の機能のついたアプリも連動させることは可能だと思います。

 もう1つの考え方は、この際ですから、五輪期間中とその前後だけでもいいので、訪日外国人用に「首都圏のJR・私鉄・地下鉄・バス」が14日間乗り放題で均一料金のICカードを売るというのはどうでしょうか? 外国人観光客からの複雑な料金体系に関する質問に答える労力がほとんどなくなるというメリットを考えれば、多少の減収には目をつぶることはできるのではないでしょうか?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story