コラム

はしかの流行が暴露したアメリカの予防接種の実態

2015年02月04日(水)13時34分

 2007年の日本での「麻疹(はしか)」の流行に際しては、日本の子供たちへの麻疹予防接種の接種率低下が大きな問題になりました。低下の原因は、予防接種による副反応が過剰にメディアで取り上げられる中で、厚生労働省が一斉接種を一時期断念させられていたことにあります。

 流行が深刻になるにつれて、こうした経緯がようやく反省され、高校生への追加接種を含む対策が実施されるようになりました。日本での流行はまだ続いていますが、現在では散発的で小規模なものとなっています。

 その当時、例えば日本からアメリカの少年スポーツ大会に遠征したチームの中に麻疹の感染者がいたために、アメリカでの感染を広めたとして一部で問題になる事態も起こりました。

 この頃のアメリカでは、MMRという麻疹を含む三種混合ワクチンの接種は強制的に行われており、麻疹に関しては事実上の収束状態にあるとされていたのです。ですから、余計に日本での流行という現象はアメリカをはじめとした国際的な批判を受けることになりました。

 ですが、そのアメリカで昨年から急速に麻疹が流行しています。アメリカの中央官庁であるCDC(米疾病予防管理センター)の最新の発表によれば、13年までのアメリカにおける麻疹の感染者数は「年間100人以内」で推移していたものが、14年には急速に拡大して「年間644人」というハイペースになっています。

 特に昨年12月には、テーマパークの集団感染が発生したカリフォルニアで50人の感染が確認されています。更に年が明けて今年になると、1月の1カ月で「感染数が105人」と感染が加速し、一気に社会問題化しました。

 現在のところ、CDCの発表によれば、直接の要因は「海外から感染した旅行者が継続的に流入」していることであり、この流れは「ゼロにはできない」一方で、「国内においてワクチン未接種の人口が増えていることが流行拡大の原因」だという問題提起をしています。

 というのは、07年に日本での流行が問題視された際には、アメリカでのMMRの接種率はほぼ100%であるという前提で議論がされていたわけですが、実際の接種率は低下してきていることが調査の結果として判明したからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story