コラム

米議会によるオバマ提訴は可能か?

2014年07月08日(火)10時47分

 オバマ大統領は、すっかり政権末期の「レームダック」状態になっている――ワシントンだけでなく、全米にそんなイメージが広まっているようです。特にここ数週間は、イラクでテロ組織「ISIS」の勢力が伸長しているというニュースが流れるたびに、オバマの支持率が下がるという雰囲気になっています。

 もっとも、世論の方ではイラクに対してあらためて積極的な介入は望んでいないのです。例えば、イラク情勢に対して追加の予算を投入するとか、米兵の更なる流血を招くような政策が提案されたとして、アメリカの世論は賛成しないでしょう。ですから、イラク情勢に関して「何とかして欲しい」とは思っていないのです。

 さらに言えば、イラク情勢が混沌としている現状というのは、ブッシュ政権の責任であるわけです。ですが、アメリカの世論としては、何となく「合衆国大統領が無策」であるのは許せないわけで、結果的にオバマの支持率は下がるだけというわけです。

 中には、「オバマが今、一つだけ熱心にやっている」のは「ヒラリーへの禅譲工作」だというような報道もあります。これは「オバマの不人気」というネガティブなイメージを、ヒラリーにまで「かぶせよう」という趣旨がミエミエなのですが、それでもネットの主要なメディアに取り上げられるということは、もしかしたら民主党政権全体が飽きられているのかもしれません。

 ちなみに、現在の共和党の大統領候補で有力だと言われている人の中には、イラクに対して積極的に軍事介入を再開しようなどという主張はあまりないのです。共和党もまた、世論の厭戦気分に乗っかろうとしているということもありますが、それ以前の問題として、共和党の新世代も「世界のトラブルには距離を置く」という孤立主義に戻りつつあるということです。

 そんな中、下院のベイナー議長(共和党)がオバマ大統領を提訴すると言い出しました。連邦議会の下院は、共和党が絶対多数を取っています。ですから、自分たちの決定で法案を通して政策を実施できるはずです。

 ですが、オバマ大統領はそうした下院の政治的パワーを妨害しているというのです。この場合、例えば法案に対する大統領の拒否権(ビトー)が乱発されているとして、この点を訴えるという可能性はあるわけですが、大統領の拒否権というのは憲法に保証された権利ですので、この点を訴えるのは難しいことになります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story