コラム

「中国の夢」vs「アメリカの夢」の勝者は?

2016年11月25日(金)15時00分

<中国の共産党シンパも反共産党も、どちらも自分たちの都合のいい部分だけを見てトランプ政権を歓迎しているのは、トランプ外交の不明瞭さを何よりも表している>

「大富豪トランプ」の存在のお陰で、今回のアメリカ大統領選はおそらくここ最近で最も世界的な注目を集めた大統領選になったが、この選挙で私はおもしろい現象に気付いた。

 中国共産党の支配を支持する中国人の多くは、トランプの当選でアメリカが衰退すると考えている。彼は中国経済にとって不利なTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱だけでなく、ヨーロッパとアジアの同盟国に対して、もしも彼らが十分な費用を払わないならアメリカは金輪際「世界の警察官」の役割を果たすつもりはない、と公言している。この状況は中国外交にとって有利――という訳だ。

 一方、私の知っている海外で民主化運動に関わる中国人の中でも、強くトランプを支持する人がたくさんいた。共和党は民主党に比べて反共産党的であり、そのうえトランプは今までずっと中国共産党に対して批判的で、これまで何度も中国の輸入品に対して懲罰的関税を科すべきだと公言してきた。それだけではない。トランプがあえて同盟国に自国の国防負担を増やさせることで、韓国や日本は「正常な国家」への一歩を踏み出す。その結果、韓国と日本は国防能力を高めるが、一方で中国の実力はアメリカがアジアから撤退した後の空白を埋めるには決して十分でなく、逆に秩序を維持する「警察」のアメリカを失ったことで、中国は直接隣国からの圧力に直面することになる――。

 共産党シンパも反共産党の人も、それぞれトランプの築く未来から自分に都合のいい部分を見つけ出しているのだが、このことはトランプの対外政策が不確定であることを何より説明している。

 トランプが就任初日にTPP協議から離脱すると宣言し、中国はこの機に乗じてアジア・太平洋地域に自分が主導するRCEP(東アジア地域包括的経済連携)を「押し売り」しようとしている。TPPがなければ中国は世界経済でアメリカに引き続き対抗でき、安倍首相もアメリカなしではTPPに意義はないと語っている......と、「他人の不幸」を喜ぶ人は多い。しかしトランプの言葉から判断すれば、彼がTPPを離脱する主な理由は製造業と雇用機会を取り戻すため。中国共産党にとって受け入れがたい武器貿易を持ち出す可能性もある。

 習近平の「中華民族の偉大な復興」という「中国の夢」と、とトランプの「Make America Great Again」という「アメリカの夢」の一体どちらが実現するのだろうか。米中のこの巨人同士の対決を勝ち抜くのはどちらか。その結末が明らかになるのは数年後だ。

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

主要行の決算に注目、政府閉鎖でデータ不足の中=今週

ワールド

中国、レアアース規制報復巡り米を「偽善的」と非難 

ワールド

カタール政府職員が自動車事故で死亡、エジプトで=大

ワールド

米高裁、シカゴでの州兵配備認めず 地裁の一時差し止
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリカを「一人負け」の道に導く...中国は大笑い
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 10
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story