コラム

「毒ガス」をまき散らす病める巨龍

2015年12月10日(木)12時28分

 北京市は今月7日、深刻な大気汚染に対して「赤色警報」を発令した。中国が最高レベルの赤色警報を出すのは初めてだ。

 中国政府は13年に汚染が続く予測日数に基づき、大気汚染のレベルを「青色(24時間)」「黄色(48時間)」「オレンジ色(72時間)」「赤色(72時間以上)」の4つに分類した。しかし今月7日の前には一度も赤色警報を出したことはなかった。

 今回の深刻なPM2・5の発生は先週に始まり、先月30日に政府はオレンジ色警報を発令。ニュース記事によれば、北京の空気中に含まれるPM2・5の微粒子は1立方メートルあたり900マイクログラムを超えた。この数字は、WHO(世界保健機関)の定める上限値の25マイクログラムを大幅に上回っている。PM2・5の状況があまりにひどいため、庶民は政府の警報発令基準に疑いを持つようになった。政府はこれまで何度も特に華北地域のひどい大気汚染問題をなんとかする、と請け負ってきた。北京市長の王安順(ワン・アンシュン)に至っては昨年、習近平に向かって来年までにPM2・5を処理できなければ、「クビを差し出す」との誓いを立てたほどだ。しかし庶民は彼の到底実現できない誓いをあざ笑っている。

 PM2・5はいったん人体に入ると取り返しのつかない健康被害をもたらす物質だ。この微粒子を肺に吸い込むと排出できず、成長期の子供の場合だと一生健康被害が残る危険がある。アメリカの科学者の研究によれば、中国の大気汚染による死者は1日あたり4000人に達している。実に中国の全死亡者数の17%だ。もしPM2・5の発生している時に北京に行けば、1時間の呼吸で寿命が20分縮まるという。

 目に見える大気汚染は注目が集まり話題になりやすいが、中国の環境汚染は実際あらゆる方面に広がっている。土壌汚染はおそらく大気以上に面倒な問題だ。全国の耕地面積の5分の1近くは何らかの形で汚染され、10%以上は重金属汚染によって耕作できない「毒土」と化している。毎年、土壌汚染によって食糧は1000万トンも減産している。

 水質汚染はさらに恐ろしい。昨年の中国環境白書によれば、中国では3分の2近くの地下水と3分の1の地上水は「人間が直接接触するべきでない」レベルの危険な状態にある。いくつかの都市では、水道水は水洗トイレで流す水にしか使えなくなっている。筆者は上海で十数年間生活したことがある。上海はすでに超一流の大国際都市だが、水質悪化は住民の激しい怒りを招いている。上海の家で蛇口をひねって出てくる水には明らかに異常なにおいがあり、バスタブで一定の深さまでためると、肉眼でその汚れ具合を確認できる。水道会社に何度電話を掛けて訴えても、検査員は顔色ひとつ変えず私に「正常で問題ない」と答えるばかりだったが。

 中国の環境汚染の影響は中国人民にとどまらず、周辺の隣国にも危害を及ぼしている。PM2・5はたやすく日本に「侵入」する。もしも中国で一党独裁の統治が続き、政治や言論が不自由なままなら、PM2・5を消すことも、そのほかの様々な環境汚染を根本的に改善することもできない。49年以来、中華の大地の上には「赤色警報」が鳴り響いている。現在の中国は、まるで重病に苦しみ、かつ周辺の隣人に毒をまき散らす巨大な竜のようだ。中国の環境問題を根本的に解決するにはどうすべきか、私は日本の読者の意見に耳を傾けたいと思う。

<次ページに中国語原文>

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

クレディ・スイス、韓国での空売りで3600万ドル制

ビジネス

4月消費者態度指数は1.2ポイント低下の38.3=

ワールド

香港中銀、政策金利据え置き 米FRBに追随

ワールド

米副大統領、フロリダ州の中絶禁止法巡りトランプ氏を
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story