コラム

危うし、美術館!(1): 香港M+館長の電撃辞任は中国の圧力か

2016年01月27日(水)07時00分
危うし、美術館!(1): 香港M+館長の電撃辞任は中国の圧力か

2019年香港に開館予定の美術館M+(エム・プラス)の館長ラーシュ・ニットヴェが、突然辞任を発表し、アート界を驚かせた。(写真はyoutubeより)

 2015年10月、アート界を驚かせるニュースが配信された。香港の西九文化區に2019年開館予定の美術館、M+(エム・プラス)の館長ラーシュ・ニットヴェが、2016年1月に辞任すると突然発表したのである。辞任後、少なくとも1年間は顧問として在籍するというが、院政を敷くということでもなさそうだ。1953年ストックホルム生まれのニットヴェは、(デンマークの)ルイジアナ近代美術館、ストックホルム近代美術館の館長を歴任し、テート・モダンの初代館長を務めた大物キュレーター。M+でも2011年の就任以来、多国籍の優秀なスタッフを配下に豪腕を振るっていた。

 ニットヴェの辞任の裏について記す前に、香港の現代アート事情について説明しておこう。僕が現代アート雑誌の編集長だったころ、彼の地にアートシーンは存在しないに等しかった。2005年に特集の可能性を探るリサーチをしに訪れた際には、又一山人(アナザーマウンテンマン)ら何人かのアーティストが活動していたものの、コマーシャルギャラリーはほとんどなく、アートマーケットは貧弱で、作家は雑誌や広告のグラフィックデザインやプロダクトデザインなどの仕事で糊口を凌いでいた。ポール・チャンリー・キットら、現在人気のあるアーティストが国際的に注目されるようになるのは、その数年後のことである。香港特集は断念した。

 中国の経済的な発展がすべてを変えた。よく知られているとおり、ある国のアートマーケットの興隆は経済成長と歩みを合わせる。非西洋諸国において、バブル期の後に沈没した日本に代わり、経済とアートがともに栄えたのはBRICsの国々(ブラジル、ロシア、インド、中国)だった。アジア通貨危機後の中国は、21世紀に入ってから成長を加速させ、2007年には14.16%という高い成長率を記録する(世界通貨基金「世界経済見通しデータベース」による)。本土では、豪華な広告が入ったアート雑誌が続々創刊された(その後、廃刊が相次ぎ、淘汰も進んだ)。僕のリサーチは少しだけ早すぎたのかもしれない。

 国際自由港である香港では税金がかからない。中国現代アートの爆発的ブームとともに、クリスティーズやサザビーズなどのオークションハウスが現代アート作品の販売を始めた。ガゴシアン、ペース、ホワイト・キューブ、リーマン・モーピン、エマニュエル・ペロタンら、欧米の有力ギャラリーも支店を開設した。決定的だったのは、2013年にアート・バーゼル香港が始まったことだ。世界で最も格が高いとされるアートフェアに、2002年以降開催されているアート・バーゼル・マイアミビーチに続く第2のアウェイ開催地として選ばれたことで、香港はアジアにおける現代アートマーケットの中心地に定まった。東京や上海のアートフェア関係者は肩を落とした。

アート・バーゼル香港2015 ハイライト
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プロフィール

小崎哲哉

1955年、東京生まれ。ウェブマガジン『REALTOKYO』『REALKYOTO』発行人兼編集長。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。2002年、20世紀に人類が犯した愚行を集めた写真集『百年の愚行』を刊行し、03年には和英バイリンガルの現代アート雑誌『ART iT』を創刊。13年にはあいちトリエンナーレ2013のパフォーミングアーツ統括プロデューサーを担当し、14年に『続・百年の愚行』を執筆・編集した。

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