コラム

大江千里がいま明かす「人生3つの後悔」と手にした幸せ

2021年01月14日(木)17時35分

ブルックリンの大江氏自宅に飾られた鏡餅 SENRI OE

<30歳前後の時の成功は、幸せとは一致していなかったと語る大江氏。「やらなければよかったと思う後悔とやっておけばよかったのにと思う後悔では、後者はより長く尾を引くもの」――。>

人生は「今」しかないのに、どうして人は過去や未来にとらわれるのだろう。僕は過去の出来事には感謝こそすれ、あまり興味がない。一瞬一瞬その時々の「今」がつながって現在をつくる。そして積み重なりたどり着いた「今」を僕は生きている。

とはいえ、僕の人生にも「後悔」と呼べるものがいくつかある。それらの後悔をきっちり認定することで、その先の人生の「幸せ」が明確になってくる。

どうして自分からあんなに志願して習ったピアノを、10歳の時にあっさり辞めたのか?「後悔しないと約束するなら辞めろ」と言う父に「絶対にしない」と断言した。今は後悔している。

高校3年の時、「どうしたら音楽家(作曲家、演奏家)になれるか」という質問をしに音大の先生のドアをノックした。先生は僕の演奏を目をつむって聴きながら「君は音大に行かず我流でやったほうがいいかも」とアドバイスをくれた。

今となっては結果オーライだが、若いうちに鍛錬を刷り込み、ポテンシャルを上げる最後のチャンスだった気もする。47歳でジャズに転身し指が上達するには地獄のような時間がかかり、故障との戦いがある。あそこで進んでいればどうだったろう。

29歳の時に踏みしめた初ニューヨークの地がパワフル過ぎて、自分が根底から揺るがされる音を聞いた。だからこそ現地にアパートを借りて日本と行ったり来たりの生活を始めたのだが、結局帰国。あの時移住していれば180度違う人生がそこにはあったはずだ。

欲しいものを手に入れる時とは、実はタイミングなのである。メリットや安全を重視するため守るものもあっていい。失っちゃいけない時だってある。その場所、そのタイミングで選んだ人生を無我夢中に生きていると、それが現在へとたどり着く。

新しい年の始めに「3つの後悔」を大認定することで現在の自分があぶり出されるのが面白い。

プロフィール

大江千里

ジャズピアニスト。1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー後、2007年末までに18枚のオリジナルアルバムを発表。2008年、愛犬と共に渡米、ニューヨークの音楽大学ニュースクールに留学。2012年、卒業と同時にPND レコーズを設立、6枚のオリジナルジャズアルパムを発表。世界各地でライブ活動を繰り広げている。最新作はトリオ編成の『Hmmm』。2019年9月、Sony Music Masterworksと契約する。著書に『マンハッタンに陽はまた昇る――60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)ほか。 ニューヨーク・ブルックリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマーで総選挙投票開始、国軍系政党の勝利濃厚 

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story