コラム

「物価水準の財政理論」 シムズはハイパーインフレを起こせとは言っていない

2017年01月25日(水)10時49分

 現在、物価水準の財政理論が重要になっているのは、過去に例のない中央銀行のバランスシートの膨張が起きていたり、EUにおいて、構造的な問題から財政の裏づけのない金融政策が行われているからである。

 前述したように、中央銀行がバランスシートを膨らませることはもっとも危険であり、金利の上昇によってそれは行き詰まり、財政的なコントラクション、つまり、利払いの増加により、実需に対する財政支出は縮小することになるから、金利は上昇して景気は悪化する。最も危険なのは、中央銀行が債務超過になり、それをまかなうためには、結局財源が必要で、そのためにはインフレが起こり、それにより金利が上昇し、さらに債務超過は大きくなり、インフレが必要以上に大きくなってしまうことである。

 したがって、金融政策を考える上で、財政的効果を考慮に入れないことは誤りであり、金融政策と財政の相互依存を踏まえたうえで、財政的な(財政支出的な)効果を利用して、インフレをコントロールすることが重要である。

 これがシムズの近年の主張のポイントである。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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